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July 30, 2004

舐める女。

「あんた、それって女を舐めてない?」苛立ちそのままに灰皿に小刻みに煙草の灰を落としている。ぎゅっと潰すと両の腕を組んだ。自然、胸が盛り上がる。黒皮のスカートから伸びた足は黒の網タイツに被われているがその粗さは殆ど用を足していない。テーブルがなかったら目のやり場に困ったであろう。「あんたは生意気な女が好きだってあたしに言ったじゃない。それを何?今さら傷を舐めてくれる女が欲しいって言う訳?」「あんた、あたしの事を生意気な女だと思っていた訳?で、もういらないとでも言う訳?で、何?あたしがいつもあんたに好き放題言っていた、そしてあんたが一生懸命背伸びしてあたしに付いて来たって言いたい訳?」「馬鹿も休み休み言いなさいよ。あんたの希望通 りに一生懸命だったのはこっちよ。あんたはねえ、いっつもそうやって自分の都合で生きている。想像の世界と現実をごちゃ混ぜにして生きている。」


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July 29, 2004

潰れる女。

「酔ってなんかいないもんね。」言いながら女は崩れて行く。砕けるように沈み、やがて尻餅をつく。「酔ってなんかいないからね。酔っているのはあたいの肉体。あなたの目はちゃんと見ているからね。あなたが今のあたいをどう思っているか、はっきり分かる。ええ、別 れてあげるわよ。隠したってちゃんと分っているんだ。何時言い出すか待っていたんだ。酔わなければ言い出せないあんたの事だよ。だから一緒に酔ってあげた。だけど、そんなだらしないあんたの事、好きだった。しょうもない二人だからしょうもない別 れ方だってあるよね。心配する振りをされるくらいなら、いいわよ、このままおいてきぼりにして。」「構わないから行ってよ。あたいは自分で帰れるから・・・」


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July 28, 2004

ブーツを脱ぐ女。

「分っているわ、どうせ通り過ぎる男だもの。」マニュアル記載の制服を脱ぎ、私服に着替えた女は自分を取り戻すかのように微笑んだ。束ねた髪の毛をほどくと「自分にはもう飽きたわ。結局、そこは何も感じなくなっちゃったし、とっくに麻痺しちゃったし、男に媚びるしか能がなくなって、お金で全てを置き換えて、この世に生んでくれた親にさえ感謝の気持ちも失って、何を失うのかさえ忘れてしまって・・・」 「許すとか許されるとか、そんな事も考えられなくなっちゃって、もう終よ。良いのよ、あなたが私を救えるはずないもの。そんな事言っていたら、あなたも自分を失うわ。」「たった今だけで、束の間のそれで良いの。溺れて深く沈みたい、願いはそれだけ、私を抱き締めて。」


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July 27, 2004

電話の女。

「問題はねえ」。身体にフィットした黒のワンピースにやはり黒のジャケットを羽織る女。ソバカスが浮いた顔の中で赤い口紅の形が動き出す。大きな瞳は見据えたままだ。「あんたに松屋のテイクアウトを領収書を貰って帰る女が想像出来る?」「でさあ、四畳半の部屋のシングルベッドで何時掛かって来るか分からない男の電話を待つってさ。」「掛かって来た電話は親な訳、それでさ食べてる?って聞いて来る訳。食べられる仕事を持っているかって。」「今日が娘の誕生日だなんてすっかり忘れられちゃってさ。」「あたしは海亀かい。はは。」「一人でさ、とっくに冷めた松屋のテイクアウトに蝋燭35本刺してさ。笑っちゃうよね。あんたはきっと笑うよね。涙流しながらさ。」「女が一人で生きて行ける時代だけどさ、あたしだってこうして生きている。生きている事自体、悲しいけどさ。」


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July 26, 2004

激高する女。

女が激高しているのは分かる。体中の血液と体液が沸騰して目が膨らんでいる。男はその視線を避けて後ろを向かざるを得ない。男の背中は女の身体の起伏を痛いほど感じる。男の耳辺りから頬にまとわりつくように薄荷の薫りがして、やがて「嘘なら許してあげる。」「本当だったら殺してやる。」男の腕に女の爪が食い込む。「ここから突き落としてやるからね。あたしは本当の事しか言わないよ。えっ、どうなの?」


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July 24, 2004

寒くないです。

革のミニスカート、ジャケットの下は黒のストッキングとTシャツの出で立ち。別 に私が好みの服を書いているわけじゃないです。ブルージーンズの時の方が多いですね、彼女の場合。握手すると大抵の女性は手が冷たいが彼女もそうです。雪女のイメージそのものですね。もっとも全身が冷たい訳でもないでしょうが、私は知りません。「ストッキングだって結構暖かいです。ババシャツも着てますから。やだー、薄いやつですよ。」「私、これでも脂肪があるんですよ。」「何にやにやしているんですかあ?あっ、そのチラ見止めて下さい。見られている方は敏感に感じるんです。女の子に嫌われたくなかったらその習慣止めた方が良いですよ。嫌らしいと思われちゃいますよ。じろじろ見られるのも嫌だけどチラ見はもっと嫌。」「ああっ、やだ、筋肉だってありますよ。ほら。」


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July 23, 2004

別にー。

髪はショートで染めていない。しかしワインレッドのぴっちりとしたワンピースを着ている。煙草の煙を吹き掛けながら「エネルギーなんか使ってないですよ、私そんなにごつくないもの。」「モッコを担いだり、シャベルで掘る訳でもないしさー、リキュール飲みながら指先でキーボード触っているだけですもん。」「皆が変化を楽しんでくれたらそれでいーんじゃありませんか。報酬がある訳でもないしね。自分のサイトだもん、自分の作りたいようにしているだけ。それだけ…。」「でもさ、実はね、本当はさ、私の大切な良い男(ひと)が自分を振り向いてくれるのを待っているんだー、変わって見えるのは感情の傾斜のせいなんだけど、なかなか気が付いてくれないけどねー。ところでさー、あんたには分かったの?」


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July 22, 2004

嘘の女。

「嘘つき!」雨が路面から打戻され白く濁る土曜日の海岸通りのバー、カウンターから離れた窓辺の席、黒のニットからVの字に透けるような白い肌が覗く。空のグラスの縁を白い指がなぞる。指についた塩を蝋燭の炎に振り掛ける。瞳の中の炎が強い憎悪に変わる。「ジ、エンドって訳ね。もう少し上手に騙し続けて欲しかったわ。あんたが嘘つきってのはとっくにお見通 しだったわよ。だから騙された振りを続けていたのに、それをあんたが告白するから何もかもおじゃんだわ。良いの、どうせあんたに実体なんかないんだもの。嘘を誠意と感じていられる時間だけあんたと付き合っていただけだからね。」「はっきり言ってあんた馬鹿だわ。芝居を続ける勇気もない癖に嘘なんか付いて。これからは女に嘘を付く時は、もっと真剣についてよね。ライトなお酒で酔いました、なんてガキじゃあるまいし、でないと・・・」


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July 21, 2004

知る女。

「はじめて出会った時から知っていたわよ。」カーディガンの袖から白い指先が覗く。中指の腹で人さし指の爪をさする。「私に好意を抱いていたのははっきりとね。でも結局あなたは何も言わなかった。怖れていたのかしら。」指遊びを止めた手はすでに固く握りしめられている。「欲しかったのは何?哀れみ?同情?心?肉体?どれでもないようで、どれも当てはまるわね。あなたは自身が何を求めているか分からず戸惑う内に私の幻想が次第に大きくなって行くのを怖れたのね。だから何も言えなくなった。一度言葉に変えると大切な物が失われるかも知れない、ただの所有欲ね。あなたいつも計算だわ。」「何もかも求めている錯覚が私自身すら見えなくなって来た。違う?本当は何?逃避の道具だったら私はご免だわ。ご免こうむります。私はあなたのおもちゃじゃない。」


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July 20, 2004

天空が霞を纏う夏の朝の事だった。
こんな日は暑くなる。
僕はこの日に新しいクライアントへプレゼンテーションを行う予定になっていた。
本来なら体中のアドレナリンが体液の流れに沿って充満し、顧客の欲望を察知し満足を与える為に、
能弁にしかし寡黙に誠実に務めを果たすアドマンの甲殻を形成する筈だった。
しかし揃えたデータに何の意味があるというのだ。これらの残骸から導きだされた未来に何の確証があるというのだ。
しかもこれから逢うべきクライアントのトップは叩き上げの人物だ。
担当者とその上司共の捏造、歪曲、嘘、諸々を覆す怖れは経験値に織込み済みだが、
夜半から街灯の光に勘違いした蝉がうるさく鳴き散らし僕の神経を緊張から遠ざけていた。


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July 18, 2004

分岐の在処

桜の樹木の皮を撫で、ケヤキの下でじっと見上げる。野良猫を飽かずに見続ける。地面 に落ちた枯葉を拾い上げては一枚一枚手持ちの本に挟み込んで行く。こんな自分もきっと他人から見れば距離を感じさせてしまうのかも知れません。他者との距離は前もって計る訳にはいきません。ある日突然接近し密着するかも知れませんし、また同様に離れ疎遠になる事もあります。だからこそ一期一会が大事である。徹する事こそ大切である。一瞬だからこその読みの深さが求められる。僕はそう思います。それをどう捉えるかはまさに当事者の器量 にかかる。僕はそう思います。ただ言える事は、満ち足りた人間は寓話は書かない、事実のみを書くのみであろうと。満ちていないと言う事は現実に不満や不平が存在しているとは限りません。欲望の代償行為でもありません。形の無い寂寥感を埋める行為なのかも知れません。自分の精神に分岐をもたらした者は例えば同い年の男の友の死であったりします。それが男らしい男であればなお友に恥じない自分を自身に要求するようになります。それが分岐の在り処です。


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July 17, 2004

分岐の在処

昨日、あるサイトの写 真の中でこの角度を持った少女(厳密に言うと少女ではない)を見ました。現実にも何度か当事者として見た事があります。腫れぼったい目をしていました。泣いた後か、溢れるものを必死で押さえ込もうとしているのか、それは分かりません。でもカメラに向かって自分自身の発露を妨げずにいながら、それをレンズで捉えフィルムに定着させたカメラマンとの間に一種の距離を感じました。現実には自分はうろたえ、カメラは静謐を保っていた。カメラと自分との距離も感じました。冷酷に徹し切れない自分が在ります


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July 16, 2004

分岐の在処

多面 体で捉えなければ人間と言う生物は本来描けないものですが仕方はありません。したがって性的に差別 が出て来るのは止むを得ないでしょう。とんでもない事を書くかも知れませんがそこは寛容をもってお読みください。わざわざ断わらなければならないのか不思議ですが。僕は嵐の中では嵐の止んだ後の事を夢想します。この辺りに自分が潜んでいるようです。熱中と書きながらすでに果 ててしまったりします。顎を左下30度、瞳を右上15度ちょうどこの角度に自分のポジションが見えて来ます。撃たれないよう、しかし攻撃はすぐに展開できる角度です。


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July 15, 2004

竹女

 吹き渡る風は、竹の葉を、私がいちばん嫌いな朝の通勤列車の人の肩と肩のいがみ合いのように摩擦し熱を帯びながらも一種のなげやりな態度のまま、通り過ぎ、ざうっと音を立てさせていた。
 湘南の、とある駅からバスに乗り換え、バス停からさらに歩く事10分ほどの ところに、その竹林はあった。あったと書くのは、現在では見る事ができないからだ。
 私の不思議な体験は、私だけのものであり、同行した静香は今でも何も知らぬかのように屈託がない。
 私が恐怖から逃れようと、その竹林に火を放った事さえ彼女の記憶には一片も残らないだろう。

 静香は、私の親友である藤沢慎一の妻だ。断っておくが私と静香は決して美しいとは言えないまでも世に言う不倫な関係ではない。ただ、心の綻びを互いに見切る能力を持ち合わせ、初めて慎一から結婚相手を紹介された時に感じ合えるものがあった。
 上場企業の役員に抜擢され、ふだん家庭を顧みる余裕のない慎一から見れば、コンビニのレジ打ちで糊口を凌ぐ自称作家の私は自分の妻の相手として安心していられたのだろう。また静香からすれば、経済的な余裕と優しさだけの男である夫と、空想癖のある頼りない私とで精神のバランスをとっていたであろう事は想像に難くない。
 どちらかと言えば、人に自分を委ねる事の多い私は彼女に引き摺られていたのかも知れない。
 その日も、
「私、竹が見たくなった。」と、静香からの誘いだった。
 JR東日本の横浜駅6番線ホームで待ち合わせをした。静香はキャブリオレを自分の足としていたが、私と会う時はできるだけ目立たない気配りをしてくれた。今日は黒のTシャツに白いパンツとスニーカーの組み合わせに白いキャップと黒いポシェットの軽装だった。
「出かけに、いつもより化粧が濃いぞと言われちゃった。」
 逢うなり目深く被ったキャップを上げて静香はそう言った。
 亭主という者は婚約時代は妻となるべき女が奇麗である事を望むのに、家庭に入ると妻の化粧に無関心になるらしい。ところがある日ふと妻のひときわ美しい顔を見ると不安に駆られるものなのだろうか。
「妬いてるのよ、きっと。」
 私はその言葉に慎一の顔を思い浮かべその顔にオーバーレイしてやった。馬鹿な奴だ。いくら忙しくとも日曜日くらい女房の相手をしろよ、俺はお前の代用品になんかなれっこないんだぜ。
 私はなぜ静香の相手をしなければならないのかと思う事もある。
 ひとつには親友の女房と言う気安さがあり、また美人とは言えないが下のまぶたがほっこり膨らむ様が妙に艶っぽい。だが一番気に入ったのは呼吸を伴わない会話ができる事だろう。
  信じきった人間を裏切る事ほど痛快な事はない。だが私にはそれほどの度胸が備わっていないため、不幸になる人間がいないだけだ。
 静香と私の能力は拮抗しており、心を読むだけでなくコアを形成し外部との遮断も自在なのだが、ふとした気の緩みから彼女は私が油断した隙を突いてのみ私の心を読める。不遜を暗示させただけで反応をし私の脳内に、馬鹿ねと彼女の声が木霊する。自分の妄想を先に言われたのでは萎えてしまう。したがって、藤沢はつくづく運が良いと言えた。
 藤沢の運の良さはそれだけではなかった。
 企業の不祥事の責任を取らされ首になった役員の後がまとして上級席に滑り込んだだけでなく、隠されていた組織トップに不可欠の人心掌握能力が責任ある立場で開花した。
 そもそも運は静香との結婚生活にあると言って良い。普通の男にとって心の読める女は危険だが、逆に言えば心根の優しい静香は慎一から包み隠さず悩みを打ち明けられているようなもので、それによって慎一が常に開放感を味わう結果となった。
 満たされた精神は脆いが自由から生まれる発想は強い。
 藤沢はMIND2004を掲げ、不祥事に依って離反しかけたユーザーのこころを新たな展開資源とすべく新機軸を矢継ぎ早に打ち出し旧弊を断ち切って行った。
 竹を見たいと言う静香を伴って知人から前もって聞いておいた竹林へ案内した訳だ。災難とは忘れた頃にやってくると言うのが定説だが、よもや自分に降り掛かってくるとは思わなかった。
 何故、静香が竹を見たいと考えたのか前もって心を覗いておけば良かったと後悔するには時間が必要だった。しかし静香は心のコアな部分は閉ざしていただろうから無駄な努力だったのかも知れない。心を読む能力の不幸はこのような場合に起きる。ふだん読める能力に自負心があり読めないはずはないと言った傲慢から、否定する状況を端から除外していた。
 皐月にふさわしい良く晴れた日であった。
 頭蓋へ帽子の上から日差しが、ちりちりと遠慮なく突き刺してくるが、一歩竹林へ踏み込むと嘘のように汗が引いて行った。
 すでに、地面の方々から多くの節を凝縮させた筍が斜面に沿って根は多少歪むのであろうが、一見正直者のように遠慮を知らぬ若者の素直さのまま天を突き刺すように伸びていた。
 私は、その勢いを眩しいと感じ見上げた瞬間、
「そこは駄目。」
 静香の厳しい声と共に肩を掴み引き戻され、したたか腰を地面に打った。
「命が生まれようとしている。」
 驚いて振り返った私に、あなたが知らずに地面に顔を覗かせる直前の筍を踏もうとしているからだと、静香は手を差し伸べながら弁解した。
「へえ、しかし良く分かったね、君は筍掘りの名人になれるね。」
 思わず転んでしまった無様な自分の姿に苦笑しつつ、照れ隠しに言うと、静香はあなたが上を見ていたから気が付かなかっただけでまったくの偶然よと答えた。
「あなたが踏んでしまうと可愛そうだから、静香が先に歩くわね。」
 偶然を装いつつ、私の前を歩く彼女の足取りは確実に蛇行し特定の箇所を避けているのは、敷き詰められた落葉で滑りやすくなっている斜面に足を取られがちな私でも分かった。テレパシーもカットアウトしているらしく脳には踏みしめる音に加えて、ざうっと鳴る葉の摩擦音だけが響いた。
 最初は涼しく思えた竹林も奥へ進むうちに空気の密度が高くなり熱く感じられるようになってきた。
 静香の目的は何なのだろうか。竹が見たいだけの単なる遊行とは思えない足取りだった。竹なら既にうんざりするほど見て来たはずだ。
 静香は慎一の妻であり、言うならば人妻だ。それが人の気配もない竹林に、いくら夫の友人であっても男である私だけを伴って確たる理由もなく訪れる訳がない。しかもこの場所は彼女は知らなかったはずだ。
 一抹の不安が頭をもたげ、一体この女は何を考えているのだろうか。そう思った瞬間、目の前の彼女の引き締まった臀が揺れを止めた。
「ここよ。」と私の脳内に突然木霊して来る。おっといけない、女の臀でコアに綻びが生じてしまったようだ。
 我に返った私の視界には振り向いて仁王立ちになった彼女の姿が映り、その背後には大きな光の束があった。
 目が慣れてくるにつれ、光の束に見えたものは直径にして20メートル程の空き地で、強い日差しが周囲の竹を照らし地面からの輻射光で輝いていたせいと分かった。空き地に思えたのは朽ち果てた竹林であった。あるものは倒壊し、またあるものは途中でちぎれ、さらに地面から突き出た部分が繊維のみとなり、おかっぱ頭に似ているものもあった。それらは一様に茶褐色に変色していた。それらの中心に1本だけ青いままの竹が直立していた。
 静香の声が聴こえる。
「百年よ。待ったわ、正確には99年と364日と23時間と40分。後20分ね。間に合って良かった。」
 一体、静香は何を言っているのだ。私は困惑すると同時に彼女と自分の正気を確かめるように静香に歩み寄った。
 人間の脳というものは、それが一種の逃避だとしても驚愕が度を過ぎると却って平静を保とうとする働きがあるようだ。
 静香の瞳が翠色に変わっていたとしても、それは以前からそうなのだと自分に言い聞かせ事実から目を背けてしまい、およそ論理的思考からほど遠い世界に自分を置いてしまった。うろたえが自らの意思を失い、聞きたくないと願っても私の固いコアを突き抜けて静香の声は木霊する。
「竹取物語をご存知よね。作家さん。」
 少なくとも私が知る限り、このような物言いをする女ではなかったはずだ。まるで臣下の扱いではないか。
 静香は私のそのような逡巡には目もくれず青竹の元へ向かう。彼女の背中から言葉が矢継ぎ早に放射され飛んで来る。
「私が戻るまで、この一本を守る為に皆は我が身を惜しまず命を預け死んで来たのよ。」
「一体どうしたんだ、慎一と何かあったのか。」
 私は月並みなおよそ作家に似合わない台詞しか出なかった。自分で言ってその可笑しさに気づき苦笑した。そのきまりの悪さが自分を現実に揺り戻すきっかけとなった。
「ただ、竹が枯れただけじゃないか。竹だって寿命があるんだろう。聞いた話では百年に一度花が咲いて・・・」
 静香はもはや聞いてはいない。
「慎一の花が咲いているわ。」
 言われて気が付いたが青竹の横に変色しつつ頼りない風情の曲線を描く竹があった。周囲の色と似ていた為に目に入らなかったのだ。精気が抜かれもはや立つ気力が失せているようだった。
 慎一の花?慎一が竹?可笑しいよ、この女、気が触れたのか。
「ただの世代交代だよ、竹はその本体は死なないんだ。周りを見てご覧よ、筍だって生えている、青々としている、元気じゃないか。」
 ゆっくりと静香に近寄る。
「だから、普通の事なんだ。慎一の声を聞くあまり疲れたんだよ。さあ、もう帰ろう。」
 静香は振り向いた。いかにも気の毒そうに愚かな者を見る表情になっていた。
「まだ分からないの、あなたは静香の大切な人なのよ。」
 静香の声の調子が変わった。今までのどちらかと言うと感覚器官に達する甘い声が凛とした物に変質し爆撃でもされたかのように真上から脳に侵入して来る。
「いえ、まことは私の大切な人、翁。」
 私は自分の目を疑った。疲れているのは自分なのかしら、何故静香が二人、それもだぶって見えるのだ。思わず目を瞑りずり落ちた眼鏡を中指で押し上げた。
 いや違う、同じじゃない。静香以上に美しい女がそこにいた。静香に重なるようにその女は日差しの中に溶け込んでしまうかのような透ける肌を持ち、かろうじて輪郭だけが光にかざした古いガラス瓶のように翠色に揺らめいていた。その女が私を翁と呼んだのだ。
「えっ、私が翁?爺さんにはまだ早い。」
 答える自分が情けないと思った。
「あなたは竹取物語をご存知でしょう。あれは事実なの。伝承がお噺になって形を変えただけ。帝も翁も事実と違うけどモデルは同じ人、そして同時に私の大切な人。私が生きる為に必要な人。そして私が死ぬ為に存在する人。」
 聴こえる声は幻聴か、見えている女は悪い夢か、そうかこれは夢か、幻なんだな。昨晩の深酒のせいか。
 必死に理解の臨界点を探る私に、構わず女の声は降り注ぐ。
「夢だと思っているのね。無理もないわ、もう遥か昔の記憶だもの。」
 その時、背後で人の声がした。
「静香あっ、榊いっ、どこだ、どこへ消えたー。」
 慎一の声だった。ああ、これで夢から醒めて解放される。そう思う私に静香、いや、別の女が恐ろしい事を言った。
「馬鹿な人。平気な顔をしていたけどやはり気になったようね。浮気を疑って後を付けて来たのね。」
 うろたえながら登って来る慎一の姿が目に入った。
 しかし、慎一は私たちに目もくれず肩がぶつかる程に近づいてもまったく気づかぬ様子で遠ざかってしまった。
「大丈夫よ、彼の目にはただの竹林にしか見えないもの。」
「一体どうしてしまったんだ。あんなに幸せそうな二人だったのに。慎一だって順風満帆じゃないか。なのに、どうして・・・」
 女のもはや狂気に近い濃度になった翠の目に気が付いて私の言葉が消えた。
「あの男はもうおしまいなの。私を支える精気が薄れている。」
 私は女の傍に寄るとかろうじて立っている竹を掴みながら聞いた。
「君はさっき、この竹の花を慎一の花だと言ったね。理由を聞かせてくれ。」
 女は頭を振りながら
「君なんて言い方は止して、昔のように名前で呼んで、竹女と。」
「なら、竹女、お前は静香じゃないんだね。静香は慎一を愛していないのか。何故この竹が慎一なんだ。」
「いいえ、静香は私、竹女は静香。どちらも私。静香は慎一を愛しているかも知れない。でも私は愛していない、私が愛した者はあなただけよ。」
 私は今や真剣に女に向かい合おうとしている。
「分からない、分からない事ばかりを言う人だ。理解が出来ないんだ。こんな幻は初めての経験だ。」
「突然だから無理もない。しかしこれは幻なんかじゃないの。ここで今現実に起きている事なの。だから幻に逃げないで聞いて欲しいの。確かにあなたの言うように静香は愛し合って慎一と結婚した。でも私達にとって慎一はただの有機体。私達を一年間だけ支える精気の身分なの。時間は止めてあるからさっきのように慎一は自由に動ける。残すところ15分だけの命なのに嫉妬などのくだらない時間ですり減らす。だから馬鹿ねと言ったの。でも引き換えに慎一の望む世界を、男の持っている身の丈にふさわしい世界を実現させてあげたわ。慎一の場合はせいぜいが立身出世の今の世界が限度なの。そして精気が消耗するバロメーターがこの竹。ここに朽ちた竹が99本、みんな、そのお仲間。」
 私は何も答えられない。信じがたい事実だ。確かに符合する。慎一は静香との出会いと結婚とほぼ同時にすべてがうまく行った。ただの運ではなかったのか。偶然ではなかったのか。
「私は年をとらない。百年の間何も変わらない。言い寄る男はすべて奉仕者となり一年と言う時限でその身分をまっとうするの。」
 狂っている。そんな事が許されてたまるか。
「何の為にそうまでして、竹女は。」
 何故私は言われるがままに目の前の女を竹女と呼ぶのか自分でも分からなかった。このまま自分も狂気の世界にのめり込み逃れる自由を奪われるのか。
「あなたの所為よ。あなたを探し出す為に生き続けて来た。百年を区切りに竹に姿を変え静香のように生け贄を選び生き延びて来た。あなたは私を翁として生み、帝として殺した。いいえ、実際には手を下していないわ。ご自分の犯した罪をご存知ないもの。あなたの知らない処で、竹女は死んだの。竹に結んだ我が身を天に差し出しくびってね。それを伝え聞いたあなたは物語を書いた。事実は悲劇なのにあなたは怪異なものと捉えた。しかも私を男を謀り家族財産を奪う悪女として・・・あまりに惨い仕打ち。しかもあなたはご自身を翁に置き換え善良無垢なる存在に脚色してしまった。これほどあなたを慕った女を死後も辱める。あなたはどの男よりも酷いお方。なのに今でも恋いこがれる自分が口惜しい。」
「待てよ。お前は慎一をはじめ男達を騙して食い物にしているじゃないか。まるでお前の言う噺とまったく同じじゃないか。しかも静香まで巻き添えにして。」
「慎一からあなたを紹介された時、すぐ自分が何者であるか気が付いたわ。他の男は私を幸せにしようと努めるけれど、あなたの優しさは私を不幸にするって。私を不幸にする存在は、榊、あなたしか居ない。あなたと出会った瞬間、自分が千年を超えそして寿命が尽きてきつつあるのを悟った。これで死ねると思ったわ。語り手が生きている限り私は死ぬ事はおろか再生もない無限地獄に落ちている事をあなたは気づかせてくれたのね。それはあなたが翁そのものだからよ。でも私は自身の実体がどこにあるか知らなかった。私を生んだあなただからこそ、この場所が分かったのよ。静香には済まない事をしたと思っているわ。でも私が時を止めてあなたを待っている間、百年間だけ彼女は充実した生涯を送っている訳よ。」
「彼女はその事を知っているのか。」
「いいえ、まったく知らないわ。知る事は彼女の義務じゃないもの。竹女があなたと共に消滅すれば解放されるわ。もっとも130歳のおばあちゃんになっちゃうけど。」
「そんな、残酷な。」
「残酷?冗談は止してよ。心で私を蹂躙したあなたほどじゃないわ。あなたを、あなただけを愛した私はどうなるの。許婚者を裏切る事も叶わず自害の道しか残されなかった私はどうなるの。いいえ、それは良いのよ、自分で決めた事だもの。許されないのは後に騙ったあなたよ。」
「待ってくれ、お前にそう言われる筋合いはない。私はお前に何もしていないのに何故そこまで私に執着する。聞けば聞く程お前の思い過ごしじゃないか。一人で苦しんでいるだけじゃないか。」
 私は次第に落ち着きを取り戻し反撃に移った。
「だいたい私はお前を知らない。いくら時間が経ったからといって知らないものは知らないんだ。巻き込まないでくれ。」
「醜い事だこと。あくまでシラを切るおつもりね。あなたは物語の中でこう誤魔化した。もとひかる竹、ひとすちあり。あやしかりてよりて見るに、つゝの中ひかりたり。」
「何だ、今度は竹取物語の講釈か、止してくれ。」
「竹から人が、いえ異界の人だとしても生まれる訳などないでしょう。あなたはご自身の罪を知っているからこそ、私を生きているものではない存在にしたかった。関わり合いになるのを恐れたからよ。ちくめが死んで喝采を叫んだのはあなた、榊の君。」
「榊、さかき・・・翁はさかきのみやっこ、か。」
「榊は私を犯した。のやまにまじりて、もとひかるとはよくも言ったものだわ。ひかりは私に注がれた歓喜の精そのものじゃないの。三月の後にあなたは己の不始末を知る事になる。醜聞を恐れた我が父母は金子を渡してあなたを追放した。何故、あなたが打ち殺されなかったのか不思議でしょう。あなたが死んであの噺が生まれなかったら私はこのように苦しむ事もなかったのに。奪われて捨てられてそれでも助命を祈願した私が愚かだった。我が身に身分がなければ私も直ちに放逐されたかも知れないわね。婚礼を急ぐものの孕みは隠しようもなく許婚者の対面もひたすら避け続けられたわ。怪しむのも道理よね。ふと漏らした下女は責められない。果てに待っていたのは絶望だけだわ。下男の慰み者になるなんて嫌。」
「あの時代。直視すれば女には過酷な現実しかなかった。花は、ね・・・誇る為に咲くんじゃないの。生き抜く為に誰よりも美しく咲かなくちゃならなかった。誰の為でもなく。そのまま・・・あなたの裏切りがなければ、あなたがちくめの死後を弄ばねば、私は狂乱の淵を彷徨う事もなかった。身を切る痛みも知らずに彼岸へ旅立つ事ができた。」
「現実を受容し再生を願うのならば、何故お前は自らの命を絶ったのだ。生き続けることが、たとえ野卑で無教養な男に下されたとしても可能だったはずではないか。」
「愚かね、生きる事と生き抜く事はまったく別よ。価値を全うする事だけが生き抜くという事。あなたは千年もの間、ただ生きて来ただけ。何も変わらず何も変えようともせずに物語の語り部として災厄をまき散らして来ただけだわ。自分では変わったように思えてもこの竹林の筍と同じように節の数は変わらない。伸びても伸びても空虚になるだけのね。」
「待て、私が千年も生きて来たと言うのか。」
「そうよ、あなたは語り部として、いえ物語そのものだからだわ。狡猾なあなたは不老不死の薬草を燃やすと宣言しながら、ぬくぬくと生きて来た。まったく他人の顔をしながらね。でも仕方がないわ、あなたはただ生きて来ただけだから実感は伴わなかっただけ。淵に彷徨い込んだ私は生産する事も消滅する事も絶対に不可能な永久性の中で、そのぬるい時間と同じだけの時間を物語の核を探し求める為に生き抜いた。私は人の心を読める。でもそれは逢わないと駄目。できるだけ知人の多い人を選び、その人の記憶に留まる人達を片っ端から繋いで心を操って来た。とうとう捕捉したの。あなたは静香に出会った時戦慄を覚えたはずよ。静香は言った筈よ、何処かでお会いした事はありませんかって、もちろん言葉にはしないわ。あなたはそれをデジャブとは読まなかった。さすがね、あなたの心へ入る言葉の持ち主こそ、あなたによってねじ曲げられた物語の主題、あなたが現世で書こうともがき苦しんでいた物が、実は既に書かれていた物で、あらすじの中に組み込まれていたと気が付いた訳だから。でもあなたは心を閉じる事によって終末の兆しから目を背け、私の追求をかわした。正直、私も突然現れたあなたが榊本人と漠然とした疑念は抱いても確信を持てなかった。それで今日まで静香の心から私を消し去りあなたの予知を防いで来た。でもさっきこの結界の中であなたの姿が慎一からは見えない事実で完全に捕捉したと分かったわ。」
 再び私は反論の機会を失った。もはや言葉でこの異変を乗り切る事は不可能だと悟った。じりじりと竹女に近づく。
「お前が今一度死ねば、お前は救われるのだな、再生が叶うのだな。」
 枯れた竹は良く燃える。幸いな事に風も強くなって来た。
「あはは、反対よ。あなたが死ななければ私は消えない。あなたが生き続ける限り竹女は再び多くの過ちを犯し続けなければならない。幾千幾万の静香と慎一を選び続けなければならない。あなたは不老なのよ、自ら命を絶たない限り。」
 こんな不条理があるものか。私が自分の正体を知ったその時に死を招かねばならぬなど、およそ合理的でない。
「なるほどね、かくや姫伝説は俺が作ったものなのか。それでお前は俺への恋慕から再生を誓ったにもかかわらず、死後も物語の中に封じられ、六道の辻へ立つ事を許されなかったと言う訳か。我が身を我が手で決せぬあわれこそお前の本質なのか。」
・・・いまはとてあまのはごろもきるおりぞ きみをあわれとおもひいでける・・・
 ふと物語の一節、かくや姫が翁と別れる際に詠んだ歌が口に出た。
 そうか、そうだったのか。知らずに謳ったはごろもとは竹に掛けたる頸枷の帯。
 俺は、竹女を勝手に死んだ哀れな女と誤解して、せめて死後を美しくと願ったが、それが却って成仏を妨げたのか。
「俺は知らなかったのだ。」
「この竹林に筍が多いのも、真の再生を願う慟哭の証よ。来世で逢う為の再生をかけたこの竹林で今度こそ孤独から解放されるわ。」
 陽炎のような女の形から静香の姿がすっと薄れ、反して竹女の容姿がはっきりとして来た。
「だが、お前は既に死んだ。俺は今に生きる。この違いは接点を見いだせない。仮に俺が作者ならば語り部ならば、これで物語は完結だ。」
 私は叫ぶと同時に女の手を引き全体重をかけて押さえ込んだ。
「もうおしまいだよ、竹女。」
 ジッポから鈍い音とともに炎が立ち上がりそれを確かめると一本だけ残った竹の根元へ放った。
 やがて、ぴしぴしと乾いた音が耳に入る。竹の油が強い匂いを放ち始めた。
 女の手は冷たく細く感じる間もなく握った手から消えた。
 私は女の顔を見た。
 静香の顔がそこにあった。静香はこれが女の力かと疑うほど下から強く私を抱きしめた。
「榊、二人で死ぬしか道はないのよ。私は心で慎一を裏切った。美しい夜景を楽しむ為に外から眺めず中に入ってしまった。失敗してもすぐ逃避できるよう端から眺めておれば良かった。もう以前の私には戻れないの。竹女は私、私は竹女なのよ。千年経って同じ過ちを犯したのは私なのよ。いいえ、あなたに罪はないわ。昔も今も。あるとすれば、それは出逢ってしまった事だけ。」
 炎はその勢力を拡げつつあった。身動きできぬまま私はもはや自分に与えられた災禍を認めぬ訳には行かなくなっていた。
 何故ならとうに静香のすべてを知っていた。だがそれを信じようとはしなかった。友を裏切り心の綻びを繕いまさぐりの中で情事を重ねていたのは他ならぬ静香と私だったからだ。
 心を通わせる危険を私自身も千年経ってなお繰り返す愚かさに今更のように気が付き、全身の力を抜いた。
 静香の顔がやすらかな微笑みを浮かべる竹女に変化した。
「竹女、最後にひとつだけ頼みがある。慎一が私の親友でなければ静香はお前と出逢わずに済んだだろう。俺が消えるのと引き換えに静香と慎一を幸せにしてやってくれないか。それがエピローグだ。」
「優しいのね、あなたのその中途半端な優しさが不幸を生み出してしまうのに。でもいいわ、それもあの二人が決める事。竹女の断ち切られた命と、あなたの残された命を二人に託しましょう。」
 目映いばかりの光が目を覆い、もはや自分の体に炎がまとわりついている事さえ感じない。
「あなたも不在、竹女も不在。痕跡すら残らない。行き着く先も分からない。」
 竹女の囁きだけが聴こえた。

いまだ そのけぶり くものなかへたちのぼるとぞ いひつたへたる

物語はねつ造と曲解によってのみ成立する。
参照
竹取物語への招待
http://www.asahi-net.or.jp/~tu3s-uehr/taketori.htm
寿命
http://www.aichi-gakuin.ac.jp/~kamiyama/si3.htm
竹文化
http://www2u.biglobe.ne.jp/~gln/35/3502.htm


posted 久多@麩羅画堂 : 09:37 AM | comments (0) | trackbacks

July 14, 2004

分岐の在り処(ありか)01

その女は黒革の腰割れミニスカートを履いていました。深紅のブラウスをまとっています。黒の網タイツを着けています。肌は白です。髪の毛は栗毛です。瞳は黒で口紅はブラウスと同色です。うなだれています。傍らに男が立っています。男は携帯になにやら話し掛けています。女はその携帯を受取るや否や深刻な表情になりました。これらの情景は事実です。しかしこれから先は彼女の世界です。誰も変わる事は出来ません。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:32 AM | comments (0) | trackbacks

July 13, 2004

完成度を高める為に何をすべきか。

ガン末期の妻がいる。
もはやモルヒネも効かない。
「抱いて・・・」妻は夫に言う。
夫は抱く事により妻の苦痛が減るならばと応じる。
だが、妻の体は強い抱擁には耐えられない。
意を決した夫は手の指に全身の力を込めて抱く。
もはや消毒液の臭いしか残らない妻の髪に哭く。
強い力は嘆きとともに病室の壁に拡散して行く。
妻は夫の指に抑えようとする震えが有るのを知っている。
ありがとう・・・。
でも、もっと強く・・・。
妻の求めに応じて力を込めて抱くかは、あなた次第。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:40 AM | comments (0) | trackbacks

July 12, 2004

時間

彼女は煙草を切らさず吸い続け黙ったままだ。そんなに吸ったら身体に悪いよ。 何故黙っている、言葉を忘れたのか。脳から口から交互に言葉が発せられる。大して意味があるとは思えない惰性の羅列。しばらくして気が付く。そうか黙っているのではなく、言葉を吟味していたのか、互いに傷付くのを恐れて。恐れるあまり時として言葉は寡黙に変わる。人を待つ間、目の前のベンチで手を繋いだままの二人を見ての作文。余計なお世話だ。しかし、寡黙をアニメーションで表現したらどうなるのか?考えた(それなりに)結果 、僕は頭の中にサムネールが出来上がる。「親指と人さし指で相手の人さし指を愛撫する。動きはこれだけ。」 現実には彼女は煙草を吸う為に安物のライターで火を着けるし、彼は俯き顔を上げれば相手の横顔をちらと見る。動かない事は決してない訳で、この動きこそが寡黙の持つ一種の緊張感をほぐしている訳だ。と言う事は動かない事こそが緊張感を表わす。後は構図だね。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:42 AM | comments (0) | trackbacks

July 10, 2004

cicada's[蝉]

その日の朝、僕は淡い翡翠色の衣を纏った女に出逢った。
百年恋して女になれるのはたった一日。
言葉に導かれるままに身を委ねれば、
僕に茜色に染まる翌朝が訪れるはずはなかった。


posted 久多@麩羅画堂 : 11:17 AM | comments (0)

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