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July 30, 2005

JAWACON2005

■JAWACON2005

■開催日:2005年8月27日(土)

■入場料:上映会参加費1,000円
■会 場:大阪産業創造館
      3階 作品展示・ミニステージ・関連グッズ書籍販売
      4階 新作上映会(2回公演)
URL


■注意事項
※開場前に十分な待機スペースが取れないため、開場前のご来場はご遠慮下さい

【新作上映会のご案内 】
第1部…11:30開演(予約チケット引替時間…10:00〜11:00)
第2部…15:00開演(予約チケット引替時間…13:00〜14:30)
(各部、公演内容は同じものです)

予約申込みは7月31日(日)スタート!

上映会の参加費はお一人様1,000円となります。
お一人様2枚までのご予約と限らせて頂きます。

※当日券もご用意しますが、席数も僅かですので出来る限りウェブ予約をご利用ください。

※ウェブ予約では当日開演前にチケット引換が必要です。
時間内にチケット引換 が完了しない場合は、その予約は無効となりますのでご注意ください。
※携帯電話での予約申込みはできません。
※チケット引換えがお済みでない場合、新作上映会の途中入場はできません。
※小学生未満のお子さまの上映会参加は不可とさせて頂きます。
※その他、サイト及び予約確認メールをしっかりお読み下さい。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:57 AM | comments (0)

July 29, 2005

ゲラダヒヒの雄の誇り。

そいつの名前は「ビネガー」。
多くのメスを抱えていた彼はある日若い雄にその座を奪われた。
彼は群れに残って性的関係を持たぬが生活を保障される第二主人に落ちるか、主人の座を狙う若い雄のグループに属し再起するかの決断を迫られる。
結局、後者を選択したわけだが何と誇りある決断なのだろう。
お前、まだやる気か?と思わないでもないが・・・ニートの話を聞くたびに思い出す。社会のせいにするな、教育のせいにするな、親のせいにするな、お前だ、お前自身の問題なんだ。
ゲラダヒヒ


posted 久多@麩羅画堂 : 11:10 AM | comments (0)

猫谷物語1-2-6-3

 猫谷の闘争の内には、シミとデジの間に起こった話の他にもいくつか悲劇があった。
 野良猫の雄マロは一応三毛猫であったが少し小柄で、生まれた時から野良猫であった。捨て場のデジとは幼友達であった。連れだって悪さをする事もたまにはあった。
 昨今ではかなり珍しくなったが、谷から少し離れた切り通しに鮮魚店があった。

 たいがいがガラスに被われたケースに魚介類が入っていたが、その日は特売日ということで商品のいくつかは表の棚に並んでいた。店の左右に別れてデジとマロがいた。ゴムの前かけをした店主は猫が二匹いることに気がついて警戒はしていた。しッしッと追い払ったがすぐに二匹は戻ってきて同じようにしゃがみこむ。店主は忙しくなるうちに、次第に猫共のことが頭から離れてしまった。猫は人族のそんな心の動きを見ていた。
 右側にいたマロが行動を起こした。店内を覗く素振りを見せながらゆっくりと道を歩き店の向かいに移動していった。店主は思わずマロに注意が向いてしまった。
 その瞬間、左側にいた敏捷なデジは店主の足元を走り抜け棚の上に並べてあった魚を頂戴し一目散に右へ走った。と同時にマロが店の向かいから左に走りこみデジが元いた場所に来た。デジを追えばマロが来る。店主は動きがとれず顔を真っ赤にして怒鳴るのが精一杯であった。
 かくして新鮮な餌を二匹は食う事ができた。もちろん公平に半分づつ分けて。味をしめたが野良猫は賢い。同じ手を使うのは危険な事を承知していた。
 チャンスは滅多に訪れる事がないのを知っていたから、ほとぼりが冷めるまでいくらでも待つ事ができた。野良猫は食物に関する限り辛抱強かった。
 話しは戻る。捨て場のデジが突然姿を消してからというものマロは面白くなかった。
「………あいつは何で俺に黙って行方をくらましてしまったのだろう。」


posted 久多@麩羅画堂 : 10:51 AM | comments (0)

July 28, 2005

通勤涼足。

夏の通勤は短パンTシャツ。
事務所で着替えるのだ。
クールビズではないクライアントに見つからないようにする


posted 久多@麩羅画堂 : 11:20 AM | comments (0)

猫谷物語1-2-6-2

 とばかりの態度をとったうえに態度と同様の言葉が口をついて出てしまったからデジは逆上してしまった。たまたま腹が空いていたから、からかう度合いが過ぎていた。ふだんから格下に見ていた家持ちに馬鹿にされたと思ったのだ。なにしろ若かったから行動も短絡的であった。
 カアッと頭に血がのぼったデジはそれでも力を加減してシミに襲いかかった。
「生意気な奴!」

 鋭い爪が肩に飛んだ。ところが不運な事に、怒声に驚き振り返ったシミの顔を真っ向から刻んでしまった。シミは顔に傷を負ってしまった。顔面に血をしたたらせ泣きながら館に帰り飼い主の人族に訴えた。
 だがシミはデジがやったと訴えても言葉が通じない。飼い主の人族は怒った。表に出てきて、こんな悪さをするのはきっと野良猫に違いないと決めつけて、野良猫と見るや片端から追い立てるやら物を投げつけてきた。野良猫たちにとってとんでもない災難となってしまった。
 悪い事は重なる。家持ちとはいえ首輪をつけていない者もいたのだった。人族は間違えて水の入ったペットボトルを投げつけた。すぐに気が付いて手当を施したが、当たり所が悪かったのだろう、不幸な家持ちはあっけなく死んでしまった。家持ちたちは野良猫を憎んだ。
 この事件から家持ちと野良猫に小さな争いが生まれた。また、この事件がなかったとしても、いつかは衝突が起こり得るほど両者に縄張りを巡る緊張があったのだ。小競り合いが続くうちに、やがて大きな闘争に変わっていき、群れるようになり東斜面では家持ちが、南斜面では野良猫が優勢となっていった。
 群れるようになると、自然と長が必要になってきた。本来であれば御掟殿と呼ばれるザキがこの一帯の象徴的な長であったが長く消息を絶っていたので勝手な自治が行われていたのだ。家持ちの長はブチという名で茶と白の模様を持つ肥満した虎猫だった。一方、野良猫の長は野良猫と家持ちの間に生まれた混血でクロと呼ばれ文字通り全身が真黒の雑種であった。
 どちらも長に選ばれるだけあって立派な体格の持ち主だ。長として統率力にも優れていた。闘争心も巧妙心も人一倍強い。だからどちらも選ばれたと言うより自ら立ったと思われた。
 直接対決の原因を作ってしまった捨て場のデジは、最初の頃に無関心を装っていた野良猫と家持ち双方の穏健派から避難を浴び、いたたまれなくなって何処かへ行方をくらましてしまった。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:38 AM | comments (0)

July 27, 2005

猫谷物語1-2-6-1

  六 猫谷

 話は一年ほど前にさかのぼる。猫谷の南側にゴミ集積所があった。先ほどから様々な色のビニール袋に埋もれて何やらごそごそと音をたてている猫がいた。捨て場のデジだ。黒に灰色の縞模様、もちろん野良猫だが若いうえに男前だ。このゴミ集積所に捨てられていた猫で当然の権利としてここに主権を持っていた。

「………チェッ、今朝は獲物が何もねえ。このところ、しけてやがる。」
 悪態をつきながらその場にしゃがみこんだ。腹が減って仕方がない。どうせ、じきにゴミの収集車が来て追い払われるからそれまではここにいようと決め込んだ。
 この辺りは家が建て込み軒が接していた。したがって猫達のなわばりも細かく仕切られており野良猫どうしの喧嘩が絶えなかった。
 人族に飼われている猫は家持ちと呼ばれていた。野良猫からは猫と認められてもらえず、仲間に入る事も認められていなかった。したがって時には貢ぎ物などをしてご機嫌を取っていた。家持ちとはいえ年中、家の中にくすぶっている訳にはいかないからだった。食物に困らないためゆったりとした気風を持つが、常に野良猫の目下に見られており内心面白く思っていなかった。
 この日、捨て場のデジが家持ちの雌猫シミにちょっかいを出した。シミは青灰色の体と金色の眼の持ち主で若く美しい雌猫なら大抵がそうであるように美しさに自惚れるところもあった。
 ゴミ収集車が来るまでの暇つぶしで目の前の道路を歩いていたシミに声をかけた。
「おいっ、ブスシミっ。何か食い物を持って来い。」
 デジはシミがまだ年若く人族から餌を余分に手に入れる方法など、知らないはずである事を知っていた。それにシミが決して醜くはなく人並み以上の器量良しであった事も承知だ。
 シミもいつもの事だから無視したまま黙って通り過ぎてしまえば、事は起こらなかったのだろうが、
——フンッ、嫌なやつ。——


posted 久多@麩羅画堂 : 10:15 AM | comments (0)

July 26, 2005

猫谷物語1-2-5-10

 義理の父の手の中でもがきながら見上げると、涙はとうに乾いていた筈であったチクワの眼の中でキクの姿がゆるゆると歪んで見えた。
「ここでな、黙って見送るのだ。良いな。」
 ハナは抵抗を止めた。
 雨ともいえぬ細かな雨が降ってきた。梅雨が始まっていた。その中をキクの後姿がやがて闇に溶け込んでいった。

 死を迎えた猫はすべての猫の縄張りをまっすぐに通って死に場所へ行く事ができた。いかに憎みあっていたとしても誰もその道を妨げることはできない御掟であった。譲る義務があった。道中出会った猫はいずれも眼を伏せ、あるいは背けた。
 キクは、はるか西を目指して体力が続く限り歩いていた。西へ行けば行くほど極楽が近づくと猫族に伝えられていた。歩けば歩くほど生きていた間の汚れが体から離れ、魂が清められると信じられていたのだった。
 猫はけっして人族の考えるように恨みを持って化けて出る事はない。老猫があたかも自動的に化け猫に変化する事など有り得ない。人族の元で飼い猫として長く一緒に暮らしておればいやでも人族の悪しき行いを見ていた事だろう。見られて困るような恥じる行為が幻を生むのだ。猫は掟に忠実にすべてを捨てて死ぬのだ。人族の恨みは人族同士で勝手にやって欲しい。猫を巻き込まないで欲しいものだ。
 どれほど歩いたであろうか。やがて力つきようとする場所で物陰を見つけ体を地面に伏せ頭を西に向けた。
 目を閉じ手足を伸ばし全身の力を抜いた。そして念じ始めた。
 無(ムーッ)、
 似路意祈似路意祈弧魔理之破(ニジイキ、ニジイキ、コマリノハ)、
 祈更無祈更無(キザラム、キザラム)、
 業心無(ギョーシンムーッ)………
 記憶が走馬灯のように巡ったが直に白い光が満ちて来た。
 やがて二、三度かすかな痙攣を見せると眠るように死んで行った。まだ十分に若く多くの子孫を残さねばならぬ運命をその身に背負っていたが他者により断ち切られた。だがその死顔は生き切った者だけが見せる安らかな物であった。その亡骸はけっして他の者に見せてはならなかった。よしんば見たとしても、その者は見た事を一切他の者に語ってはならなかった。
 猫はすべてを捨てる。邪心がない限り復活はなかった。キクは土に還っていった。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:11 AM | comments (0)

July 25, 2005

ノビールマン

結論先送りのどうしようもない兄弟の一人。しかしこののび放題が敵にとっては難儀な存在で捕らえどころがないためしばしば相手を疲れさせる。
しかしこんな事をやっていて良いのか・・・良い訳がない


posted 久多@麩羅画堂 : 07:18 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-9

「ハナ、お前は親の欲目で見ても十分に高い能力を生まれながらに持っている。お前にはそれがまだ見えないのです。お前の持って生まれた青灰色の輝く瞳は我らが祖、ニアキスの英知を表わす象徴なのです。キバシリ、いやツヅミの代から滅多に生まれなかった瞳なのです。事の是非、事の表裏をよくよく見分けるためにある。良いか、母の遺言と思って良く心に留め置くのです。留まる者は流れる、流れる者は留まる。すべては二つであって二つで無く、一つであって一つでは無い。いやいや、今は分からなくともやがて解る時が来るでしょう。それまで学ぶのです。道ばたの石くれのように、ただそこに在るのも確かに意味が有るが、ただそこに在るだけではない存在も我らには必要なのです。良いですね。お前はツヅミでありキバシリなのです。そして、スベリでもあるのです。」

 幼い者には難しい話であったが、噛んで含めるようにさとす母のかつてない優しさにうなずくしかないハナであった。
 キクはそれを見届けるとチクワに顔を向け、
「チクワ殿、わずかな時間ではありましたが幸せでございました。最後にお前様ほどの方に出会えた事を感謝いたします。」
「我らに時間は問題ではなかったはず。俺もキク、お前に出会えて幸福であった。安心せよ、ハナの身は私が必ず守るから。」
 よろしくお願いいたしますと言ってキクは死出の旅の支度を始めた。
 二匹は生け垣の棲家から外へ出てキクを送る用意を整えた。猫丘のほとんどの猫たちが遠巻きにしていた。中にキジもいた。館の二階の窓にはナガミミの姿もあった。
 食物を受け付けなかったからキクの体は痩せ細り元気な頃の面影は失われていたが、目だけは澄んで以前にも増して輝いていた。
 丁寧に毛並みを整え、立ち上がった。不思議と肩の傷口に痛みを感じることはなかった。
 外に出て静かに一同を見渡し礼をすると、もうハナの方も振り返らずに去っていく。
「キクッ……。」
 ハナは思わず母の元へ駆け出そうとしたが、チクワが遮り
「ならぬ。ハナは母を追ってはならぬ。これは我らが猫族すべての御掟ぞ。死出の旅立ちを誰も止める事はできぬのだ。」
 と、抱き止められた。


posted 久多@麩羅画堂 : 05:22 PM | comments (0)

こういう訳さ。

夢のある嘘とすくむような現実のどちらを選ぶ?と聞くと夢のある嘘だと言いやがる。
何故かと聞くと聞いている間は、あんたの事を忘れられる。
何故戦争の最中に笑顔でいられるのかと聞いた男に笑顔の娘は答えた。
「忘れていられる。」


posted 久多@麩羅画堂 : 05:17 PM | comments (0)

July 23, 2005

カビールマン。

敵に遭遇すると異臭とともに全身にカビを発生させ「カビール」と叫ぶ。アニメにする予定は今のところまったくなし。
午後から下北沢ですー。


posted 久多@麩羅画堂 : 11:34 AM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-8

 チクワやナガミミが滋養に富んだ食物を持ってきたが、もはやキクにはそれを食う力がなかった。キクの傷は思ったより深く、手当のかいもなく化膿して日を追うごとに悪くなった。
 何日かたった。死期を悟ったキクは、夜になってハナやチクワを呼んだ。
「ハナ、私はもう助からぬ。泣くでない。生きる者は必ず死ぬ。少しばかり早くなっただけです。これから私が言う事を良く聞くのです。私は今まで生きていくためのすべてをお前に授けたつもりです。だが、さらに多くの事を学ばなければならぬ。やがてお前は今まで以上に多くの猫に会う事でしょう。そしてなぜ、この世に生を受けたのかが解る時が来るでしょう。」

「キク…。そんな事は解らなくても良い。ハナはここに生きている。それだけで良いではありませぬか。」
 ハナにもキクが助からない事は解っていたが、母がいなくなる事実を認めたくはなかった。生きている、それだけで十分だ。自分の生まれた理由が解るなんてそんな事はどうでもよい事だ。いつまでも母に甘えていたかった。
「ハナッ、そのように聞き分けのない子に育てた覚えはない。良いか、お前は母の子だ。御掟ザキ殿の子だ。この母が死ねば我ら山猫キバシリ党ザキ一族で子を成す者はお前一人になるのかも知れないのです。理由もなくこの世に生まれる者はない。我が運命をお信じなさい。」
 厳しく言い渡した後、元の優しい表情に戻り、
「これは我らキバシリ一族に伝わる話です。はるか昔の事、生と死、光と闇があるように事物は有無の二つに分けられました。惑星は命を育む環境を持つ、持たないに分かれ、命は水の環境に適合する、しないに分かれました。やがて陸上の巨大な植物群の只中に我らの祖ニアキスが誕生したのです。それはやがて樹上から地上に降りて密林に適合する者とそうでない者に分かれ、適合する者は猫になり、しない者は犬になったのです。猫は大きな者とそうでない者に分かれ、大きな者は獅子や虎になり小さな者は山猫になりました。時が経ち山猫は人に近づいた者とそうでない者に分かれ、人族に近づいた猫はイエネコとなり、そうでない者は山猫のままでありました。イエネコは人族に飼われた者と捨てられた者に分かれ、捨てられた者は野良猫になったのです。一方山猫はイエネコの脅威や環境の変化に着いて行けず滅亡したと思われていたのですが、古の血筋を営々と受け継ぎ、野生を保つ一族が人里離れた地に立派に存続していたのです。大長のツヅミからキバシリとスベリと言う名の双児の兄弟が誕生しました。やがてそれぞれが独立した党を建設しました。一族の中でも群を抜いて優れた者は代々御掟殿と呼ばれ、各々の党から選ばれよりふさわしい者が最終的に死ぬまでその任に当たりました。お前の父ザキもザキ一族の長でその一人なのです。そして選ばれた者は必ず双児で生まれるのです。ザキと叔父のキジのように。」


posted 久多@麩羅画堂 : 11:31 AM | comments (0)

July 22, 2005

気晴らし眷属その1。

かの有名な永井氏の「デビノレマン」には眷属がいた。これから一人ずつ紹介する。
チビールマン。
日頃の大言壮語がいざとなるとまるで役に立たなくちびってしまう。しかしお陰で敵はその液体の臭いに辟易して逃げる。


posted 久多@麩羅画堂 : 08:25 PM | comments (0)

一口人参。

収穫した人参。
出来の悪い子ほど可愛い。
でも食べてしまった。


posted 久多@麩羅画堂 : 04:28 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-7

「何と馬鹿な、今はお前様の妻ではありませんか。お前様だけが大事。しかし生まれながらの血は……ザキも私もそしてハナもキバシリ一族、これは逃れる事の出来ない事実。山猫の誇りは自らが証を立て守らねばなりません。御掟は守らなければなりません。それに、この始末は段下のキジ殿が御掟殿に替わり片をつけてくれる事でしょう。」
「そうか、キジ殿が……。ならば何も言うまい。猫どもには私から言い聞かせよう。体に障る事を申して済まなかった。安心して休むが良い。」

 段下のキジ殿とはキクがクロに襲われた際に助けに入った茶と灰色の毛を持つ者だ。キクの前夫でハナの父ザキの弟だ。ハナにとって叔父にあたる。鋭い目を持ち豊かな知識と勇猛を誇る。八幡の階段の下に住むのでそのあだ名がついた。
 ハナは遠ざけられていたので夫婦が何を語っていたか知らなかったが、母の元からもどってきたチクワの顔からは、さきほどまでの猛々しさが消えており何やら沈んだ表情になっていた。
 集まっていた猫たちに散会するよう申し渡したチクワの態度もハナの理解を超えて不思議に思えた。
——チクワは母を裏切ったのか、先ほどまで言っていた事と違う。大人は時々に変わる。——
 その後チクワは終生キクへの劣等感に捕われるようになった。果たして自分は本当にキクの夫と成り得たのだろうかと。チクワは磊落を装ってはいたが、それだけ人一倍細やかな神経の持ち主であったと言える。
「ザキへの嫉妬か、自分への憎悪か、馬鹿な。俺ともあろう者が。」
 チクワは、キクの傷で動転してしまっただけなのだと自身に言い聞かせた。
 山猫とイエネコの誇りに対する僅かではあるが遠い隔たりで、山猫の厳とした誇りの持ち様はチクワの人族との駆け引きの中で猫足らんと欲する誇りとは違っていたのだ。こればかりは双方とも如何ともしがたいものがあった。でなければ、昔別れる事もなかったであろう。チクワの意識下には、なろうとしてもなれぬ者たちキバシリ一族への強い憧れが芽生えた。だが、やがてそれは密かに確執へと変化する。
 ハナはチクワに、母の元へ行っても良いと言われた。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:19 AM | comments (0)

July 21, 2005

楢 喜八 細坪青洲 蓼科アトリエ展

楢 喜八 細坪青洲 蓼科アトリエ展
日時 8月8日(月)〜28日(日)
会場 蓼科アトリエ
   長野県茅野市北山4026東尾根D-4
交通 JR中央本線茅野駅バス「ピラタスロープウェイ」行で
   「蓼科湖」または「ホテル滝の湯入口」下車


posted 久多@麩羅画堂 : 10:37 AM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-6

 涙が枯れるとその形相は別猫のようであった。眼を吊り上げ瞳は憎悪でたぎっていた。眉間に深く皺を刻み髭をピシとさせ毛は逆立っていた。ふだんハナや他の者に対して常に穏やかであったから、ハナはその変わり様に驚いてしまった。
 チクワは猫谷のクロに復讐せんものと配下の者を糾合した。
 以前より野良猫、家猫の区別なく面倒を良くみていたから配下以外の普通の猫でさえ慕ってくる者が後を絶たなかった。
 素直だけが取り柄となかば馬鹿にしていただけに、母キクへの想いがチクワをこうまで駆り立てるのかと子供ながらにその力に憧れた。

 優しさには底に逞しさが必要である事をハナはまた一つ学んだのであった。
 この時を境にチクワを新しい父として認めた。
 だが、キクは違った。キクはハナが興奮気味に語るチクワの行動を知ると、ハナを外に出しチクワを呼んで苦しい息の下から言った。
「チクワ殿、早まっては成りませぬ。復讐などもっての外。済んでしまった事をとやかく言って責めても致し方のない事。」
「……しかし、キク。」
「いいえ、復讐は復讐を呼びます。私の一族には遠い昔に憎悪でのみ生きる証を立てた愚かな者たちの話が伝わっています。お前様は優しい。だから私と童を救えなかったご自分を憎んでいます。いいえ、お顔がそうおっしゃっています。その形相はお前様本来の物では無い筈。自らへの憎悪を他者に振り向けてはなりません。お前様は全てを許す広い度量の持ち主で、私はそれを尊んだからこそ妻になったのです。また、徒党を組んで踏み込めば縄張り荒らしと変わりません。それはきつく御法度の筈、御掟破りになれば丘の長としてのチクワ殿の立場が危うくなります。例えチクワ殿お一人でなさったとしても同じ事。御掟殿は決してお許しにはなりますまい。お前様ほどの方がその事、分からぬはずがありません。ここは堪えてくださいませ。」
「だが、キク……。始末はつけねば丘の猫どもにおさまりがつかぬ。」
「それは、我が夫ではなくチクワ殿の丘でのお立場。ご自分でお考えになってください。生まれた子を失ったのは残念ですが、この度は家族の問題。猫丘の猫たちを巻き込む事は、山猫キバシリ一族の誇りも許しませぬ。」
「キバシリ……一族の…。お前はまだザキの事を。」


posted 久多@麩羅画堂 : 10:20 AM | comments (0)

July 20, 2005

猫谷物語1-2-5-5

 組み跳ね絡み凄まじい格闘を繰り広げクロが逃げ出し茶が追いかけるのが見えた。
 子猫達を鼻で起こそうとしたが再び息を吹き返すことはなかった。今さら嘆いても仕方のない事であった。
「ああッ、私の子ッ……。あの時もそうだった。」
 手足が冷たくなり意識が遠のく感じがした。二年前の忌まわしい光景が脳裏に甦った。ハナが生まれた際の事であった。

今とまったく同じ光景があった。違うのはハナが生き残った事と、その場では流血を見なかった事だ。キクに未練があったクロは、キクには手を下さなかったためハナを守る事ができたのだ。同時に産まれた弟の方は連れ去られてしまった。
「用心に用心を重ねての出産であったのに……。」
 悔いの只中にあった。
 翌朝、真白い体に赤黒い血をこびりつかせ傷を負った母がハナとチクワの前に姿を現わした。喜びの朝は悲嘆に変わっていった。

 噂はたちどころに丘の上全体に広まった。
「キク殿が谷の奴らに襲われ深傷を負ったそうだ。」
「やったのは猫谷のクロらしいぞ。」
 チクワの嘆きは一通りではなかった。見舞に訪れる者達は言葉も無かった。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:59 AM | comments (0)

July 19, 2005

辻下浩二のイラストレーション展

辻下浩二のイラストレーション展
日時 7月22日(金)〜24日(日)
   22日午後1時〜9時
   23日午前10時〜午後9時
   24日午前10時〜午後8時30分
会場 きらめきみなと館
   敦賀市桜町1-1
電話 0770-20-5125
主催 敦賀サマーフェスティバル実行委員会
URL こちら


posted 久多@麩羅画堂 : 08:03 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-4

  体力を消耗し疲れてはいたが、未来を想い描くとほっとするキクであった。乳を与え少しばかりまどろんだ。
 どの位時間が経ったであろうか。ふと、キクは眼を覚ました。疲れていたが意識は常に覚醒していた。草を踏みしめる音が近づいて来ている。用心深く忍んでいるがキクの鋭敏な神経はこれを逃さなかった。
「………他にもいる。」

 耳を反転させる。近づく音と反対側にも気配がした。
「ああ、この優しい音は夫かも知れない。来てはならぬと申しておいたのに。」
 夫と言えども出産に立ち会う事は御掟で禁じられていた。それでも何かしら温かくなるものがあり、緊張が緩んだその瞬間、最初に聞こえた音の方角から計ったように黒い陰が飛び込んできた。
「………夫ではない。」
 気付くのが遅れた。覚醒はしていたが体がまるで言う事をきかなかった。本能で守ろうとした子が一匹、たちまちのうちに血まみれになり事切れた。残る子を腹の下に隠したが、この態勢では反撃ができない。
 黒い陰を眼だけで追い四肢を踏ん張り爪を立て威嚇の叫びを上げたが、猫は本来攻撃こそすべてであり守勢は弱かった。
 瞬時に黒い陰は反転して攻撃を再開した。何としても殺る覚悟であるらしい。それはキクの肩を鋭い牙で噛みついてきた。
 肩を砕かれひるんだキクの眼に、残る子に襲いかかる陰が見えた。今は解かった。猫谷の野良猫の長クロであった。キクに以前から懸想し度々言い寄るのを嫌っていたのだ。横恋慕したクロが嫉妬に狂っての仕業であった。
 その時、怒声とともに茶色の猫がクロに飛びかかった。
「シャッ。来るのが一足遅かったか。……クロッ、貴様あ。」 


posted 久多@麩羅画堂 : 09:41 AM | comments (0)

July 17, 2005

立体ヒャクテンマンテン10th(展)

立体ヒャクテンマン10th(展)
日時 2005年7月15日(金)〜7月24日(日)
   [初日]16:00〜20:00
   [16日〜23日]10:00〜20:00
   [最終日]10:00〜18:00
会場 スペースゼロ
〒151-0053 東京都渋谷区代々木2-12-10
TEL:03-5371-2689(会期中開場直通)
URL こちら


posted 久多@麩羅画堂 : 04:18 PM | comments (0)

スターウォーズ

私が言うのもなんですが
何と言うか金がかかった娯楽大作だとは言える。
シナリオに無理があると感じる。本当に6作必要だったのか?
つじつま合わせの後味の悪さを感じる。
新宿で癒す。


posted 久多@麩羅画堂 : 04:17 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-3

 チクワの首に赤い輪があり、それもハナの気に入らない物のひとつであった。横目で見ながら新しい父とハスキー犬のハッシを重ねていた。
—お前は猫じゃないか。人族と共に生きると決めたハッシとは違う。それを何だ。首の回りをチャラチャラさせて。—
 生来おっとりとした性質を持っていたのだが、チクワの出現により最近になって自分のいくぶんきつい顔立ちに性格が近づいてきたと感じていた。そんな自身の変化に気がつき恐れ腹をたてていた。幼いながらも強い自我が芽生えかけている自身を持て余していたのだった。

 チクワは大人の分別を持っていたから、ハナに対しては着かず離れずに終始穏やかに付き合った。もっともその分別くささがハナを逆上させ、少しの事でも何が気に入らぬのかしばしば家を飛び出させていた。キクはその度に困った顔をしていたが、夜風に頭を冷やしたハナがやがては何事もなかったかのように戻ってくるのを承知していたから、何も言わなかった。チクワもなかば諦めたかのように同様の態度であった。
 ハナは生け垣の棲家にいた。チクワも近くにいたが母の姿はなかった。このところ、ようやくチクワが傍にいても平気になっていたが、相変わらず口はきかず無視したままであった。それでもチクワは新しい父親としてできる事の一つとして美味しい食物を持ってきた。それが楽しくて仕方がないかのようであった。ハナは不機嫌そうに黙って食べていたが、内心は夜の明けるのが待ち遠しかった。
 ハナに兄弟が誕生するのだ。キクは出産のため棲家を出ていたのだった。
 高速道路脇の緑地帯、低木が繁るが中でもひときわ低いあじさいの群生する中。
 キクは産所で息を整えていた。陣痛は始まっていた。やがてハナの弟になるであろう雄猫の二匹を産んだ。キクは多くは産まずそのかわり体格の良い子ばかりであった。産後の処理をし、童の体を優しく舐めていた。まだ目が開かずフニャフニャした頼りないものであった。
「この子たちがやがてハナを支えてくれる。あの娘はまだ自分の優れた能力に気がついていない。無理も無い、幼すぎるもの。でも、やがてその時が来たらこの子たちがハナの力になってくれるであろう。大切に育てなければ。」


posted 久多@麩羅画堂 : 04:11 PM | comments (0)

July 16, 2005

猫谷物語1-2-5-2

 最初は無視し続けていたキクであったが、まんざらでもない雰囲気になってきた。会話にチクワの事が多く出るようになったからだ。ハナはキクの気持ちの変化に穏やかではいられなくなった。母が遠くへ行ってしまうのではないかと不安を覚えたのだ。この時までハナは父を感じた事がなかった。チクワの出現により自分には父といった存在が欠けている事をはじめて知った。記憶にもない父であったがそれを裏切る母が憎いとも思えた。母子の会話の多くはチクワの悪口と褒め言葉になっていった。時に言葉はぶつかった。

 だが、あくまでもキクは辛抱強くあたたかく諭すような口調を変えなかった。
「お前の父はザキと言う。私の元を去るにあたってこう言っていた。」
——私には待つ者が多くある。再びお前の元に戻れるかどうか分らない。もし、二年経っても私が戻らぬ場合は私を捨てよ。お前は若い。血も正しい。多産せよ。そして産まれた子を大切に育てよ。それらはすべてが運命の子だ。けっして甘やかさず厳しく育てよ。——
 キクは姿こそ普通の猫に見えたが、山猫であった。そしてキバシリ一族の存続がかかっていたのだ。山猫通しの婚姻により血が濃くなるのを防ぐため、雄猫がそうであったように雌猫もしばしばイエネコとの間に子供を成す必要があった。力ある者、正しき者と縁を持ち子を成し育てる事がキクの大切な使命でもあった。猫族の世界では当然の事であった。猫を支えるのは猫自身であったからだ。
 婚姻の後、しばらくハナは寂しい気持ちを押さえる事ができなかった。理性はとうに母を許していたし、喜びを分かち合う事もできたが、心がきつく自身を縛りその狭間で苦しんだ。自然、母から距離を置く事になった。時間だけが今のハナに必要であった。

 日中は良く晴れていた。五月の空であった。晴れた日はまた夜を冷え込ませた。


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July 15, 2005

カタヤマタカシ展

カタヤマタカシ展
日時 7月19日(火)〜8月1日(月)
会場 ギャラリー喫茶アレンジ
   長崎市出来大工町46
電話 095-823-9311
URL こちら
作家URL KATTATEN.COM


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猫谷物語キャスト

ねこがやつ物語 野良猫ハナの生涯
昔、猫は一つであった。やがて山猫とイエネコに分かれイエネコは飼い猫と野良猫に分かれた。イエネコは争いを始めた。山猫は人里離れた地に住んでいたが、猫通しの争いを知り山から降りてきた。いにしえの力を持つ山猫は密かに人間界に住みイエネコの融和を目指した。山猫の中でも優れた者は御掟殿と呼ばれ普通の猫に比べ5倍の長寿であった。ハナの父ザキは御掟殿になり平和を確立し各地に長を立てたが長たちは代を経る毎に、掟を破り始め世は再び乱れ始めた。ザキは歳をとりその力は衰えを見せていた。ザキの弟キジの力だけでは平和を保てなくなっていた。御掟一族のキクはザキとの間に子を生んだ。ハナである。新しい御掟殿の誕生であったが、本人の自覚が必要とされていた。ハナは多くの猫たちに学びやがて御掟殿になる日がやってくる。

キャスト(登場順)

カリ(八幡の部下)チコの為なら死ぬ事も厭わないがチコを失い闘いに疲れはぐれとなる孤高の戦士。物語の語り部。

チコ(八幡の長)烏。八幡神社の杜を根城に付近一帯を仕切る。八幡様と呼ばれる。天狗のクロウと敵対する。クロウの部下バシとの空中戦で死ぬ。

カジキ(八幡の長老)烏。力が衰え長の座をチコに奪われる。

カタギ(東山の烏の長)若いチコの無謀を諭す。後にチコと天狗のクロウの争いでは中立を守る。

ゴロ(東山の烏の長)カタギの後を継いで長となる。チコを殺そうと思った事もあったが、互いを認めあい天狗のクロウとの争いでは、助けようとするが中立を守るカタギに止められる。

キク(母)優しく穏やかな丸顔、全身が白い毛でおおわれた器量良し。ハナに生きる為の基礎を教える。血筋を和らげるためチクワと再婚するが美しさゆえクロに襲われ子供を守ろうとした傷が元で死ぬ事になる。

ハナ(主人公)山猫の父ザキと母キクの間に生まれた。御掟殿の有資格者。黒い両耳と尾をのぞけば全身が白い短毛種。桃色の鼻の横に黒子。眼は黒縁。いくぶん憂いを含んだ青灰色の瞳。まなじりがきりりと上がり、耳は大きくとがり、鼻面がやや長く、男の精悍な印象。幾多の葛藤の末、御掟殿になる。強い悲しみに襲われると変化する。赤い目になり恐ろしい姿になる。

ナガミミ(犬族)トイプードルの雄。物知りでハナに様々な知識を与える。闘いの外にあって猫族烏族の興亡を見届ける。夢想家。

ウリ(猫谷の雌)捨て場のデジを救い子を成す。鼻回りと顎と腹が白く他は黒い。なかなかの美猫。飼い主の死により猫丘に移住する。あじさい橋のウリと呼ばれる。後に病気で弱っていた捨て場のデジを救い子を成す。ハラジロはウリに似てグレはデジに似る。シミから子供を守ろうとして傷つきやがて死ぬ。ハナに運命の子ハラジロを託す。ハラジロは過去にキバシリ一族に倒された邪悪な山猫スベリの亡霊の予言通りハナを苦しい立場に追い込む。

老人、老女(猫谷の住人)ウリの飼い主。老人の突然の死により老女は息子夫婦を住む事になりさまざまな事情からウリを捨てる。

ハッシ(犬族)瞳の色が青と灰色のハスキー犬。犬の誇りと自由について語る。

フジヒラ(人族)マンションの管理人。ユキエの父。

チクワ(ハナの義理の父)猫丘の長。茶と白のトラ猫。家持ち。穏和で賢い。立派な体格。面倒見が良く丘の猫たちから慕われていた。御掟殿となったハナを良く助ける。少し優柔不断な面がある。


posted 久多@麩羅画堂 : 12:35 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-5-1

  五 懸想

 冴えとした大気が去って行った。沈丁花のいくらか鼻をさす芳香が風に運ばれて猫丘に季節の到来を告げていた。春である。
 キクは若く美しかった。優雅な身のこなしに加え全身を白い滑らかな毛が被っていた。遠くからもその噂を聞き付け、慕って来る者が多かったがザキの妻である事を知ると皆が引き下がった。

 しばらくしてそのキクが再婚する事になった。相手は家持ち猫のチクワであった。チクワは駐車場の近くの高い塀に囲まれ館の周囲を回るだけでも大変な、相当に裕福な人族の飼い猫であった。チクワはもちろんあだ名だ。その名前の由来は単純なもので、竹輪が好きだからであった。ある日、人族が竹輪を与えたところめずらしかったせいもあって好んで食べた。それで命名されてしまったからいい加減な話だ。だが、この頃彼はあまりその食物が好きではなくなった。塩気がきつく喉が乾いて仕方がなかったのであった。出されても多くは口もつけなかった。やがて名前だけが残り一人歩きをしてしまった。性質は穏和で賢く、体格も立派だった。猫丘の多くの家持ち猫に慕われて長を務めていた。
 それが春先からしきりにハナ達の棲家を窺い、時に土産を持って来てはオーイオーイと鳴く。
「俺はお前が好きだ、妻になれ。お前にザキ殿が居た事は承知だが、すでに二年経っている。俺の子を産んでくれ。」
 何度も繰り返して言うのだった。
 ハナにはまだ大人の求愛の世界が理解できなかったから、何を言っているのか分からなかった。ただ、同じ言葉を繰り返すので、
「他に何か言う事を知らないのかね。」
 と、なかば馬鹿にした口調でキクに言った。母のキクは微笑みを返すばかりであった。裕福なチクワは野良猫のキク母子が見た事もないような食物ばかり持ってくる。それを自分の前に置き、折り目正しく正座してひとしきり鳴くと帰って行った。実直だけが取り柄のようにハナには思われた。


posted 久多@麩羅画堂 : 12:33 PM | comments (0)

July 14, 2005

2だ。

へえ!?私はフラッシュ2からユーザーだったのか。知らんかった。(いや、ちょっとは記憶があるが。何かの本に小さな記事が出ていてこれは面白そうだとすぐ買ったが当時は買ったで終わった。)
今さら出て来てもねえ。プラスチックゴミへ分別だ。


posted 久多@麩羅画堂 : 07:00 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-4-6

 ところどころに今では灰色になってしまった雪が固く残る駐車場を歩くと、ザクザクと音を立てながら足跡で霜柱が崩れた。多くの館の前は人族が片付けてしまい大雪の名残はどこにもなかった。
 この辺り猫丘は猫谷と異なり、新興住宅街のため高層集合住宅も多く、各々がその管理規約でペットを飼うことを禁じられていた。そのためか土地の広さの割りに猫が少ない。したがって穏やかな共生がなされていた。
 この頃になってハナは一匹で棲家からかなり遠くまで出かける事ができるようになっていた。散歩の途中ハスキー犬のハッシと道で会ったが、特に怒っている様子もなく先日の失敬な質問の非礼を詫びるとお互い立場が違うからと、かえって恐縮した様子であった。

——立場の違い?ああ、これだ。自分が考える誇りは自分だけの物だったのだ。だから異族が違っていたとしても立場が違うのだから誇りに対する考えが異なるのも当然だったのだ。——
 自我を持つ事は大切な事だ。自分の考える誇りを通す事も重要だ。だが同時に他者もハナに対して権利を行使し自己を主張する自由を持っていたのだった。だから自分では気が付かなかったが、自分の身勝手な押し付けにも似た感情をハッシに投げつけた事を恥ずかしいと感じていたのだ。先日より気になっていたもやもやが解消する思いであった。種族や立場、状況により誇りにも様々な考えや行動の仕方がある事をハナは知ったのであった。
 いつになく暖かな日であった。とある高層集合住宅の前庭の欅の木はその殆どの葉を落として冬のわずかな日差しが地面に達するのを遮ろうとはしなかった。
 この建物の管理人は名をフジヒラと言う。定年退職をして再就職でこの仕事を選んだ。妻を亡くし娘と二人で近くに住んでいた。
 昼過ぎ管理作業が一段落したフジヒラは、本社への業務連絡を終え昼食を済ませると前庭のベンチへ腰掛けた。少し離れたサツキの植え込みの隅にちょこんとハナが座っていた。何を話すでもなく空を見ていただけなのだが、フジヒラはしばらくしてからふと思い出したようにポケットから昼食時にわずかに残しておいたパンを取り出すとハナに近づいてきて与えた。餌を与える事はもちろん禁じられていたのだが、
——何、構うものか少しくらいなら。——
 と、こっそりくれたものらしい。この季節頂けるものは何でもありがたい。素直に、
「ありがとう。」
 と、言ったがむろんフジヒラにはニャッとしか聞こえない。ハナは異族の言葉を聞き取れたが、人族は猫族の言語を理解できないのだ。
 朝、ゴミ捨て場で野良猫とみるや、ホウキとチリトリで追い回す人と同一人物とはとても思えない優しさだった。何故?ニィとフジヒラの顔を見上げて聞いてみたが、仕事だからねとその人は陽だまりの中で笑っていた。一本調子で単刀直入に話しをつけ、どちらかというと根が単純なハナには、にわかに信じられない人族の不思議であった。もちろんフジヒラさんの気紛れかも知れない。だが、秩序が保たれている限り生き物は穏やかに暮らせるという事をハナは学んだのであった。
 この頃よりハナは自分が誰かに見られている気がしてならなかった。絶えず視線を感じるのであった。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:36 AM | comments (0)

July 13, 2005

猫谷物語1-2-4-5

「驚かしてすまなかった。」
 素直に謝ってきたのでハナは許す事にして緊張を解いた。といっても樹上から降りた訳ではない。桜の幹にしっかり爪をかませていた。そして上から見下ろして気がついた事を尋ねた。
「お前の首にあるものは何だ?」
 同じ犬族でもナガミミは滅多にしている物ではなかったからだ。

「首?……ああこれか。これは首輪という物だ。この先にいつもは鎖がつながっている。」
 答えに驚いてハナは重ねて聞いた。
「それではお前に自由がないではないか。不思議に思わないのか。」
「嫌いだ、特に夏はね。でも仕方がない、これがあるから人族と一緒に暮らせるんだよ。僕たちは群れていないと不安で仕方がないんだ。昔からそうさ。だけど今は僕一人だろう。人族と一緒に暮らすしか他に方法がないのだよ。だから少しくらいの事は我慢しないとね。」
「独りでは不安だって!繋がれてそれで犬族の誇りはないのか?」
「……誇りはないのかだって?」
 声が大きくなった。少しいらだちを覚えたらしい。人族が声を掛けながら近づいてきた。ハッシは声の方を気にしながら、
「覚えておいて欲しいな。僕たち犬族の誇りとは、主人(あるじ)に忠誠を誓いそれに殉じる事なんだよ。それがいちばん大切な事なのだ。僕たちの喜びとは主人の望みに応える事なのだよ。それが達成された時に主人の喜ぶ顔を見るのが僕たち犬族の最高の誇りなのだ。別に主人が人族とは限らないがね。」
 じゃあと言いながらハッシは人族の元へ駆けて行った。
——機嫌を損ねたのかな。それにしてもなぜハッシは主人に殉じる事が大切などと言ったのだろうか。自分だけの事に忠実に生きていくと言う事が難しいのかな。——
 ハナはそのまま樹上から、人族の回りをハッシが尻尾を振りながら楽しそうにしている様子を見ていたが、何やら見当違いの恥ずかしい質問をしたような気がして考えこむのであった。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:07 AM | comments (0)

July 12, 2005

猫谷物語1-2-4-4

 雪は夜通し降って、次の日も続いた。その日の夜半を過ぎてやっと止んだ。まだ厚い雲が天空の全周を被っていた。地上の全てが丸くなっているのが見えた。わずかな光を吸収して、雪自体が発光しているかのように輪郭を描き出していたからだ。丸みの表面から雪の粉がかすかに吹く風にサラサラと音を立てて離れていった。湿気はなかった。突然雲間にビキビキと稲妻が走った。瞬時のうちに天と地上との間に赤みを交えた銀色の細い枝を従え眩く光る太い柱が幾本も立った。次いでドガラッ、ドガラッ、ドッシーとすさまじい音が鳴り響いた。

 ハナの瞳孔は大きく開かれていたから、明るすぎる光に一瞬目が眩んでしまった。強い光は美しいがそれに照らされる他の部分は闇に隠されてしまう。ハナはそれが不思議でもあり同時に恐怖を覚えた。だが雷光に瞬間青白く輝く陰影の濃い壮絶な美しさを確かに脳裏に焼き付けた。
 それは二、三度繰り返されやがて元の静寂が戻ってきた。雲が切れて月が姿を現わし辺りを照らしだした。先程と異なり穏やかな美しさであった。ハナはホッとした。

 あくる朝、すべてが白銀に輝いて眩しかった。人族の何やら停止を命じる叫び声が聞こえた。まだ陽が低く当たる駐車場に小さな長い陰が転がるように走った。大きな陰がうねるように後を追った。雪の上に転々と小さな足跡が残り、はるかに幅のある深くて大きな足跡がその上を被うように続く。小さな陰は雪に足をとられて思うように駆ける事ができない。たまらず桜の木に登った。荒い息のまま、
「なぜ追う。」
「君が逃げるからさ。なぜ逃げる。」
「お前が追ってくるからだ。」
 必死になって逃げていたのはハナであった。
 迷惑な話なのだが、駐車場では時々運動場がわりに鎖を放たれた犬族が一時天下を取る。ハナを追いかけたのは駐車場に現われる犬族では群を抜いて大きな犬であった。瞳の色が青と灰色のハスキー犬で名前をハッシという。冬が何より好きであった。厚い毛皮をまとい暑さをかなり苦手としており、夏には動くのも大義そうで舌を出しハァハァいわせながら情けない顔をしていた。以前からしばしば目にしていたし、親しくはないが挨拶くらいはしていた。性格は優しそうで気が良い奴に見えた。
 だが、近年まれに見る大雪にすっかり興奮してしまったものらしい。今朝のように急に親しげに接近してくると恐怖が先立ち逃げずにはおれない。で、先程の逃走追跡劇が起こってしまったという訳だ。


posted 久多@麩羅画堂 : 12:35 PM | comments (0)

ライチ

ああ お前は それほどまでに 真白き肉を持ちながら
 なぜ 殻を脱ごうとせぬ。
ああ お前は それほどまでに 甘き芳香を持ちながら
 なぜ 心を解こうとせぬ。
ああ お前は それほどまでに 瑞々しさを持ちながら
 なぜ 襞に隠れんとする。

久多@来痴


posted 久多@麩羅画堂 : 12:34 PM | comments (0)

July 11, 2005

こまごまとしたおまけ。

自宅だと完全にゴミ扱いなので事務所に持って来る。
こうやって整理をしているとやはりゴミのように感じる。
なので再びしまい込んで隠す。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:31 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-4-3

 朝からどんよりと曇っていた。ハナはいつものように駐車場に出ていた。この頃車族の屋根が好きで良く上っていた。
 陽が出ないと気温が上がらず、空気はいつまでも冷たいままであった。ハナはひたすらしゃがんでじっとしているしかなかった。
 時折鼻水が出て困る事も度々であった。一度などは人族が寄って来てハナの頭を撫でようとして鼻先に手を伸ばして来た途端バシッと音がして火花が散った。静電気が悪さをしたのだった。一瞬の事だったのでハナには何が起こったのかまるで解らなかった。ただしばらくは鼻が痛かった。

 体を動かさずに眼をつむっているといろいろ考えてしまうのだった。だが浮かんで来るのは皆食物の事ばかりであった。却ってひもじさだけが頭いっぱいに広がる。で、考えるのをやめてしまった。
 地面も朝より冷たさを増して凍ったかのようだ。草族はぎりぎりと根元を締め付ける土の圧力に抵抗するのをとうにあきらめ茶褐色になった身を横たえひたすら明るい未来に思いを馳せているようだった。
 やがて夕刻より白い物が空からサラサラと音を立てながら降って来た。最初は細かく粉のようであったがじきにヒラヒラと春の桜の散る花のように大きくなってきた。鼻先に舞い降りた物の冷たさにハナは思わず身震いするのであった。雨よりもずっと冷たく氷より温かい始めての経験であった。手といわず体といわず無遠慮に降り積もったそれは体温で溶ける。その繰り返しのうちに毛が濡れてしまった。猫は濡れるのを嫌う。しばらく車族の下に隠れていたがやがて母の待つ生垣へ戻って行った。体こそ一人前に大きくなっていたが母の温かさが好きであった。
 白い花びらは止むことを忘れたかのように次々と落ちてきた。いつもなら高速道路の方から車族の雄叫びが聞こえてくるのにその日は妙に静かであった。ハナの鋭敏な耳から音が失われていき、次第にしんとした静寂が辺りを支配していった。
 この日は暮れるのがいつもより早く感じられた。ハナはこの白く冷たい物がナガミミから聞いて雪と知った。ナガミミは夜こっそりと館を抜け出し食物を持ってきてくれたのだった。時々運んでくれる物は口一杯のドッグフードの類であまり美味しいとは言えなかった。だが、今夜は人族に祝事があったそうで肉の塊であった。キクは礼を言ったが、ナガミミはいつもという訳ではないからと、軽く会釈をして帰って行った。
「ナガミミは今夜、飯抜きかも知れない。」
 と、キクはハナに言った。胸が熱くなった。ハナの持つ人一倍優れた感受性のせいか知らず涙が出た。ナガミミへの感謝の気持ちからか、ゴミを拒みながらも施しは受けたという母の気持ちが解らなかったのか、なぜ涙が出るのかは解らなかった。


posted 久多@麩羅画堂 : 11:01 AM | comments (0)

July 10, 2005

公休なんだけど。

プール>SW>横浜動画倶楽部と思っていたのだけど目が覚めたのは正午・・・凹。
中途半端なので結局事務所の整理・・・・凹。
proseed2から5までのCディスク。CD-ROM起動Fディスクなんてのも。竹の物差し、ロットリングコンパスなんてのも。ぜーーーーーんぶ廃棄ーーーーーーーーーーーーーー!!


posted 久多@麩羅画堂 : 03:51 PM | comments (0)

猫谷物語1-2-4-2

「ハナ!キクは自分が恥ずかしい。お前にそのような事をさせていたのか。」
 誇り高いキクにとって娘のハナの行動は許しがたいものであった。
「でも楽です。」
「楽?ハナは楽でさえあれば何をしても良いと考えていたのか。心卑しき身に落ちてはならぬ。」

「しかし腹は言う事を聞かぬ。仕方がないではありませんか。それに盗んだ訳ではありません、ここにあった。ただそれだけではありませんか。」
「お前は私が飢えさせたと言うのか。必要以上の何を望むのだ。お前が飢えると言うのなら私が代わってゴミを漁ろう。それを食うが良かろう。ハナ、己の姿だと思って母を見ているが良い。」
 そう言うとキクはゴミの中へ分け入り頭から突っ込んだ。しばらくして引き上げたキクの美しい顔は口といわず鼻といわず汚濁にまみれていた。
 ゴミを漁る母の姿を見てハナは恥じた。あまりにも浅ましい姿に思えた。
 自らの知恵と力で獲物を捕らえねばならないとキクの姿はそれを語っていた。また、ハナもそれを聞く力を備えていたのだった。
「キク、解ったからもう良い。」
「解りましたか。平にして安は平猫ならば許されるが、お前は静にして迫であらねばならないのです。」
「おっしゃる意味が良く解りません。ハナは特別な存在なのですか。」
「今は解らなくても良い。いずれ時が来れば自ずと解るでありましょう。」
 それからは決してゴミに近付く事はなかった。


posted 久多@麩羅画堂 : 03:46 PM | comments (0)

July 09, 2005

手かざし。

自分が尋常ではないと感じる時があるものだ。
トイレの洗面台で手をかざすと自動的に水の出る水栓があるが、あれは困るのだ。
私はあれが使えないのだ。知人の使った後で同じようにしても水が出ない。故障かと思い隣のやはり他人の使った後の水栓も無効となる。
つまりどちらも私の手だけに反応しないのだ。
何でも自動化されてはそのうち生きて行けなくなる恐れがある。


posted 久多@麩羅画堂 : 10:58 AM | comments (0)

猫谷物語1-2-4-1

第二章 破壊


  四 雪雷

 冬が訪れあらゆる色がその彩度を落としていた。
 街は歳の暮れ特有の気忙しさで動いていたが、この辺り猫丘は常と変わらぬ静けさを保っていた。だが、ハナ達野良猫にとって辛い季節の到来でもあった。しばらくは寒いうえに餌が少なくなるからだ。


 朝、吐く息が白くなった。もわッとしたものがハナの鼻のあたりにまとわりついてまもなく大気に溶け込んで行った。腹が空いている上に昨夜の冷えが体の芯まで凍てつかせ、動きがぎこちない。
 なにしろ一年中毛皮一枚で暮らしているのだ。夜間に活動しているため昼間のうちに眠らなくては体がもたなかった。生垣の下にある壁の前で丸くなってうたた寝をしていた。幸いここは北風があたらない。陽が出てさえいれば十分に暖かいのだ。

 ハナは人族の子供の無邪気が嫌いであった。その行動に予測がつかない上に乱暴だからだが、今朝のようにことさら寒い朝はなおさらであった。
 じっと目をつむり、せっかく良い気持ちになっているところへ幼稚園へ登園する人族の子供達が寄ってきてやたらと触った。帰りも同じ目にあうのでハナはいい加減うんざりしていた。
「気安く触るな。」
 と、一声鳴いてむくれてそっぽを向いてしまうのも度々であった。
 結局のところ、ハナは折角見つけた朝寝の場所をより条件の悪いところへ移動せざるを得なくなってしまうのだった。
 そのようなハナであったが、ゴミの収集日を守らない人族は好きであった。早朝の寒さを嫌って夜間こっそり駐車場脇のゴミ置き場に黒いビニールに入れた物を置いていってくれるのだった。
 決まりを守らぬ人族は大概が決まっていたので、靴音やサンダルの音で聞き分けその人族が館へ帰るとハナは尻尾を立てていそいそと向かう。狩りをしなくて済むので贅沢は言っておれなかったが、臭いを嗅いで当たりをつけてから、口と爪で袋を裂き結構良いものにありついた。

 ハナは娘なのだが父親の血が濃いせいか体格において他の猫を圧倒的に上回っていた。そのおかげで何匹か集まって来たとしても皆は近づいて来ず、悠々と貪る事ができたが何かの事情でハナがそこに居ないと争奪戦が始まるのが常であった。
 キクはしばらくの間、ハナの行動を知らなかった。ある夜の巡回中に偶然見つけるとその場で厳しく叱った。


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July 08, 2005

猫谷物語1-1-3-5

 雨は降り止まぬ。ときたま転がり落ちる土の塊が龍の命の名残を留めていた。
 一つの黒い塊が落ちてきた。それは振り返ったウリの目の前に来てゴトッと音を立て停止した。雨に洗われて次第に薄い茶の色を帯びた形になっていった。猫の顎のないされこうべが現われ両の眼の窪みに青白い光が宿った。激しく打ち付ける雨の音は消えていた。ウリの心に言葉が発せられた。

「オオウッ!この時を俺は何年もの間、待っていたであろうか。だが世は乱れ光のひとつも無く暗黒のままだ。何も見えぬが我が下僕(しもべ)ウリよ、お前の姿は感じる。お前は人族を信じ愛し裏切られ捨てられた。愛は憎悪を宿す。憎しみは裏切りを紡ぎ、裏切りは狂気を孕(はら)む。やがて狂気は破滅へ直(ひた)走る。全てはお前の運命だ。」
 されこうべはここで一旦言葉を切ると、しばらくウリの胎内を探るようにしていたが、
「ウリよ、聞け。我を助けよ。力を持ちて暗黒に光を掲げよ。この混濁に終止符を打つのだ。我が魂の乾きを癒せ。」
 ウリは聞く。
「はて、我を助けよとは、お前様に何をせよと?」
 ウリの心の中に語り掛けるされこうべの言葉は一段と高揚し吐く息の熱さが感じられた。
「フフウッ、知れた事、我の子を成せよ。我の名はスベリ一族。」

 言葉が終わるとともにされこうべは砕け散り姿を消した。ザアッと雨の音が戻った。ハッと我に返ったウリはしばらく辺りを見回していたが、
「はて夢であったか、それにしても不思議であった。されこうべなど、ふるふる。ああっ、雨は嫌じゃ、何処かへ隠れねば。」
 そう言うとウリは龍の鬚から離れて行った。


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July 07, 2005

猫谷物語1-1-3-4

 鳥族の中にはその樹族の枝葉に頼る者や、家の軒先で頭を羽の中に包み風の抵抗をかわそうとする者達もいた。
 風に翻弄されながらあらゆる物が飛び去って行く。穴の開いた風船のように、奇妙な弧を描きながら北へ跳ね飛ばされた者は持ち堪える事の出来なかった鳥族であった。

 野良猫どもは物蔭や庇の下などに難を逃れていたが、多くは固く目を閉じ四肢を詰め、体温の低下を防ぐため体をできる限り縮め、雨に打たれるままにひたすら忍従の態であった。
 人族はといえば多くは家猫とともに館の内に閉じこもり不安気に天空を見上げるばかりであった。
 ウリがいた。いまだに野良猫の身であった。消防団員とおぼしき人族が数人現われたが眼の前で足早に引き返して行った。
 あいかわらず崖下の家の庇の下に雨宿りしていたが、その瞳に一瞬、緊張が走った。悪しき者の胎動を感じたのだ。
 猫谷、南側の急斜面の赤土の上にチロチロと一本の細い水の道が生じた。やがてそれは本数を増し、細かい土砂混じりの幾つかが束になって太くなった。崖の中腹をコンクリートで被ってしまったためか、本来、雨水を吸収する樹族の数が圧倒的に足りない。したがって雨を遮る葉も少なく雨は直接に大地を叩く。表層の赤土は徐々に雨水を含んで黒さを増し重くなった。大地に生きる者達へ無言で圧力をかける。
 初めにその重さに樹族が耐えられなくなり、次いで草族が自身の根さえ持ちこたえられなくなってきた。彼等の肉体は十分な柔軟性を持っていたが、限界はあった。
「カッ、無念なり。もはや我が身はこれまでか!」
 ビシッという自らの肉体が破裂する音を聞いたのが彼等の最後であった。意識が遠のくと同時に、つい先ほどまで善人であった彼等が、魔物の仲間に豹変した。崩壊の始まりであった。
 樹族たちの魔物への変化を見た瞬間、ウリは全神経と筋肉を最大限に解放すると、本能の命じるままに行動を起こし、雨の最中に跳ね飛んだ。
 崖の上部に小さな裂け目が現われたと見るや、ズズウッと音を立てそれは左右に急速に拡がり大きな傷口を開けた。全身の至る所に緑の角を生やし、太い胴体の鱗から赤黒い血液を噴出させた龍は、咆哮を上げながら恐ろしいほどゆっくりと、念入りに周辺を巻き込みながら、今は住む者のない、ウリが親しんだ家を確実に飲み込んでいった。
 その邪悪な髭がウリを捕え掛けたところで突然龍の命が絶えた。


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July 06, 2005

藤田三保子展

藤田三保子展
会期:2005年7月4日(月)〜7月9日(土)
時間:正午〜午後7時(9日は5時まで)
会場:ギャラリーGK
〒104-0061 東京都中央区銀座6-7-16第一岩月ビル1F
電話:03-3571-0105
URL:こちら


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猫谷物語1-1-3-3

 食べ終わるのを見届けると、丁寧にその皿を洗い、新聞紙に包み鞄に納めた。そして、ウリに合掌して何やら念じると息子夫婦の車に乗り込んだ。
「ウリよ、なにとぞ許しておくれ。元気で暮らしておくれ。」
 老女の目はそう言っているように感じられた。老人にとって暮らした土地を去る事は過去を捨てるに等しい。身を切られる思いであった事であろう。

 人族の中には生きる事に自信を失い、出家する者が後を絶たないと言う。だが、捨てられ残された家族は、それでも過去を引き摺り生き続けなければならぬのだ。これを身勝手と言わずして何と言う。理由の如何を問わず今のウリは捨てられ残された家族と同等であった。
 老人に比べ自分に距離を置いていた感じの老女の、今朝の今までに無い共有の時間に観念したのだろうか追う事もせず、もはや雨戸が閉じられた縁側の下から、去って行く老女をじっと見詰めるウリであった。
 餌をやらねば、なれ慕うような事もなかったであろうが、今さら老女を人族の誰が責める事が出来ようか。やはり「止むを得ない」事情であった。だが、年に何万匹もの命が保健所でその生を空しくする事を思えば、飼われた者達にとって人族の事情の軽重は問題ではなかったのだ。
 ウリは再び天涯孤独の身になった。

 びよおう、びょおおう………
 朝からまとわりつくような湿り気を含んだ強い風が吹いていた。やがて南の空が濃い灰色から漆黒に変わり大粒の雨を伴う暴風になった。
 地に生き、天に生きる者のそのすべてに容赦なく襲い掛かってくる巨大な大気の渦、台風であった。
 おうおうと怒鳴り散らし目の前にあるすべてを押し退けながら、己の破壊力さえ持て余し気味に大気を振動させながら駆け抜ける、はずであった。ところがどうした事かこいつは道に迷ったのか、その場に立ち尽くし駆けるのを忘れたかの様子だった。
 踏みつけられた場所は堪ったものではない。横殴りの雨が依然として続く。草族はとうに抵抗を止め嬲られるがままであった。
 欅や楠など樹族は、荒ぶる風雨神を罵りながらも、必死になって、
「もう一時の辛抱ぞ。頑張れ、負ければ欅の名が泣くぞ。」
 と、声を掛け合い根足を踏ん張り励ましあっていた。


posted 久多@麩羅画堂 : 08:13 PM | comments (0)

この国は

このままでは三流国家から脱却できない。
こちら
さらに政治は人々から遠ざかってしまう。しかしそれでは国家が崩壊する。
こちらも


posted 久多@麩羅画堂 : 04:50 PM | comments (0)

July 05, 2005

猫谷物語1-1-3-2

 老人の常にない状態に驚いたウリは、台所で朝食の後片付けをしていた老女の足元へ駆けこみ「大変だ、大変だ。」と声をあげてぐるぐると回るばかりであった。老女の耳には、なにやら催促しているような短いニイッ、ニイッ、という鳴き声に聞こえたものであるから、

「……何だろうね、この子は。さっきご飯をあげたばかりじゃないか。」
 と、適当にあしらっていたのだが、あまりにしつこいので胸騒ぎをおぼえ、ふと老人を呼んでみたが返事がなかった。
 老人は救急車で病院へ運ばれて行ったまま、再びわが家にその姿のまま帰って来る事が出来なかった。
 しばらくは老女がウリの面倒を見ていたが、老人の息子夫婦が迎えに来て遠くで一緒に暮らす事になり、慣れ親しんだ家を手放す事になった。先方は集合住宅のため、ウリを連れて行く事はできない。不憫である。が、人族の都合では仕方の無い事であった。新たな飼い主を見つけるべく八方手は尽くしたものの、ウリの出自がはっきりしない孤児であったためか、なかなか引取主が現われないまま、ついにその日が来た。
 別れの朝、ウリはそれを察したのか不安気に老女の足にまとわりついて、一向に離れようとしなかった。
 老女はウリのためにいつも使っていた給餌用の陶器皿に、最後の鮭ご飯を盛り付け馳走し、はぐはぐと食うウリを静かに見守った。
 うつむきかげんの老女の表情は深い皺に被われ彼女以外の人間にはその感情は窺えなかった。ただ、ウリの成長は老人とともにあった歳月のうちのいくらかを潤していただろうことは想像に難くない。また、生涯の伴侶が生前最後に会話した者が自分ではなく、目の前で無心に飯を食うウリであったかも知れない事実も彼女は認めざるを得ない。はたして何の会話があったのであろうか、それとも何もなかったのか。ウリに聞く事の出来ない自分の会話能力を恨んだ。だが、同時に老人の意識の最後が独りぼちではなかった事に感謝していた。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:38 PM | comments (0)

猫谷物語1-1-3-1

 三 孤猫

 運命はこの世に生を授かったその時に既に定まっている。逃れようとして逃れるのならば、この世に不幸は無いのだ。不運の遺伝子は生き続ける限り体内から立ち去る事は無い。


 猫谷の南に崖があった。その下に所有者の歳月とともに歩み、数多くの思い出を柱に刻んだであろう木造瓦葺きの平屋の一軒家があった。
 閉じられた雨戸の前に若い雌の野良猫が佇んでいた。鼻回りと顎と腹が白く他は黒い、なかなかの美猫であった。名をウリと言う。
 毎日のように決まった時間に訪れ、やがて季節が一つ過ぎようとしていた。アブラゼミがわんわんと喚き散らす中、きっちり前足を揃え直立不動のまま、こころもち小首を傾け足元に濃い影を宿していたが、やがてヒグラシが鳴き始める頃、寂し気な後姿を門の外に見る事が出来た。

 その家には夏の初めまで老夫婦が住んでいた。子供はいたが成人して後、遠くで所帯を構えていたのだった。優しい老夫婦であった。身寄りもなく幼かったウリは時々に餌をもらっていたのだが、やがて二年も経つ頃には家の中に納まり家猫となっていた。ところが、それと前後して老人が倒れた。

 その日は晴れていた。軽い朝食の後、老人はどっこいしょッと縁側にあぐらをかき、胸のポケットから老眼鏡を取りだし、顔にかけこころもち顎をひきぎみに、床に広げた新聞を読み始めた。長年の日課であったが今では惰性かも知れぬ。小さな活字を追うのが多少苦痛になっていた。
 老女は老人の座っている傍らに熱い茶の入った湯飲み茶碗を置くと台所へ立った。
 見出しを追う老人の網膜は、広げた新聞紙の上に黒い染みが拡がるのを認めた。と同時に視界が急速に狭まる。振り払おうと首を傾げた瞬間、脳の中で何かがドクンと鳴った。体が揺らぎ何かを言おうとしたが、まるで自由が失われていた。朧の中に自分を見つめる愛猫の瞳だけが残りやがて消えた。

 いつものとおり、ウリは老人の膝の上でうたた寝を楽しんでいたのだが、背中をさする手の動きがふと止んだ。次いでウリの上に被いかぶさるように前のめりになり、やがて横へくずれゴトッと音をたてた頭部はそのまま大きないびきをかき始めた。


posted 久多@麩羅画堂 : 09:35 PM | comments (0)

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