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July 13, 2005

猫谷物語1-2-4-5

「驚かしてすまなかった。」
 素直に謝ってきたのでハナは許す事にして緊張を解いた。といっても樹上から降りた訳ではない。桜の幹にしっかり爪をかませていた。そして上から見下ろして気がついた事を尋ねた。
「お前の首にあるものは何だ?」
 同じ犬族でもナガミミは滅多にしている物ではなかったからだ。

「首?……ああこれか。これは首輪という物だ。この先にいつもは鎖がつながっている。」
 答えに驚いてハナは重ねて聞いた。
「それではお前に自由がないではないか。不思議に思わないのか。」
「嫌いだ、特に夏はね。でも仕方がない、これがあるから人族と一緒に暮らせるんだよ。僕たちは群れていないと不安で仕方がないんだ。昔からそうさ。だけど今は僕一人だろう。人族と一緒に暮らすしか他に方法がないのだよ。だから少しくらいの事は我慢しないとね。」
「独りでは不安だって!繋がれてそれで犬族の誇りはないのか?」
「……誇りはないのかだって?」
 声が大きくなった。少しいらだちを覚えたらしい。人族が声を掛けながら近づいてきた。ハッシは声の方を気にしながら、
「覚えておいて欲しいな。僕たち犬族の誇りとは、主人(あるじ)に忠誠を誓いそれに殉じる事なんだよ。それがいちばん大切な事なのだ。僕たちの喜びとは主人の望みに応える事なのだよ。それが達成された時に主人の喜ぶ顔を見るのが僕たち犬族の最高の誇りなのだ。別に主人が人族とは限らないがね。」
 じゃあと言いながらハッシは人族の元へ駆けて行った。
——機嫌を損ねたのかな。それにしてもなぜハッシは主人に殉じる事が大切などと言ったのだろうか。自分だけの事に忠実に生きていくと言う事が難しいのかな。——
 ハナはそのまま樹上から、人族の回りをハッシが尻尾を振りながら楽しそうにしている様子を見ていたが、何やら見当違いの恥ずかしい質問をしたような気がして考えこむのであった。


posted 久多@麩羅画堂 : July 13, 2005 09:07 AM

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