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July 27, 2005

猫谷物語1-2-6-1

  六 猫谷

 話は一年ほど前にさかのぼる。猫谷の南側にゴミ集積所があった。先ほどから様々な色のビニール袋に埋もれて何やらごそごそと音をたてている猫がいた。捨て場のデジだ。黒に灰色の縞模様、もちろん野良猫だが若いうえに男前だ。このゴミ集積所に捨てられていた猫で当然の権利としてここに主権を持っていた。

「………チェッ、今朝は獲物が何もねえ。このところ、しけてやがる。」
 悪態をつきながらその場にしゃがみこんだ。腹が減って仕方がない。どうせ、じきにゴミの収集車が来て追い払われるからそれまではここにいようと決め込んだ。
 この辺りは家が建て込み軒が接していた。したがって猫達のなわばりも細かく仕切られており野良猫どうしの喧嘩が絶えなかった。
 人族に飼われている猫は家持ちと呼ばれていた。野良猫からは猫と認められてもらえず、仲間に入る事も認められていなかった。したがって時には貢ぎ物などをしてご機嫌を取っていた。家持ちとはいえ年中、家の中にくすぶっている訳にはいかないからだった。食物に困らないためゆったりとした気風を持つが、常に野良猫の目下に見られており内心面白く思っていなかった。
 この日、捨て場のデジが家持ちの雌猫シミにちょっかいを出した。シミは青灰色の体と金色の眼の持ち主で若く美しい雌猫なら大抵がそうであるように美しさに自惚れるところもあった。
 ゴミ収集車が来るまでの暇つぶしで目の前の道路を歩いていたシミに声をかけた。
「おいっ、ブスシミっ。何か食い物を持って来い。」
 デジはシミがまだ年若く人族から餌を余分に手に入れる方法など、知らないはずである事を知っていた。それにシミが決して醜くはなく人並み以上の器量良しであった事も承知だ。
 シミもいつもの事だから無視したまま黙って通り過ぎてしまえば、事は起こらなかったのだろうが、
——フンッ、嫌なやつ。——


posted 久多@麩羅画堂 : July 27, 2005 10:15 AM

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