April 03, 2010

春女(しゅんめ)

春の嵐の夜の事である。
家の近くに樹齢を誇るソメイヨシノがある。
帰宅を急ぐ私の前に女が現れた。
それは突然の事である。
吹きすさぶ風に枝先から花弁が中空に舞い、次いでアスファルト道路に打ち付けられ一瞬散ったかと思うと私の体を包むように再び舞い上がり私が思わず顔から払いのけようとすると相手を認めたかのように花弁たちは私から離れ目の前に竜巻風に集合し私と同じ背丈に固まりやがて白く輝く女の体に変わった。
というニュアンスのお話が・・・もぞもぞとな。固まるかなあ


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April 02, 2010

春の嵐。

眠れぬままに仕事中はうつらうつらと春の夢。どうも一日不機嫌なのはびょうびょうと一晩中煩く騒ぐ春女の地団駄のせいだ。白きまま散る花の無念や如何に。爛熟の染まるや君が唇命の限り。


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November 25, 2006

世に売れた君でなく

世に売れた君でなく
僕が始めて知った君が好きだ。
何故だか知るか?原点だからだ。
君が輝いていた、その瞬間を共有できたからだ。
今の君はとても遠い。


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September 15, 2006

厳封。

ばかだねえ、誰だって消したい過去の一つやふたつはあるもんだ。だけど生きてる限り捨てられないからって消してしまう愚かはないじゃないの。ほらご覧。焼酎風情だって減封って言ってるよ。そんなもん、やり直した人生の重さで潰れてしまうのさ。
違うなあ。消したいのではなく見せたくないのだ。自分しか知らないのに何故恐れるのだろうかという視点が抜けている。再考。
何故捨てる事をためらうのか。の視点。再考


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March 17, 2006

ディスカス。

熱帯魚、情熱。
とは限らない(^-^)
このお店のギャラリーページには美しいdiscusがイッパイ。

Mrs.ディスカス。精神が病んだ時につきあってくれる女性は嬉しい。まあお互い様なのだが、元気を出せよと言われるより、そうだね仕方ないよねと言われた方が楽になれて生きて行ける事の方が多いのだ。弱いからね。
Mrs.ディスカス。膝枕で背中を丸くしていられる唯一の女だ。抱こうとするとするりと体をかわし、じゃまた明日ねと小さく微笑みを返す。そのような距離感がステキさ。弱いからね。
Mrs.ディスカス。自分でも理解し難い行動を取る事が多くなった。今までの押さえていた感情が、いや知らぬうちに蓄積された自分を守る為の殻が崩れて来たと言うべきか。正直に告白すれば崩壊する。だから自分からは言い出さなかった数々の事柄。それが一挙に露呈され落ち着きを失い自らの言葉の振動に耐えられなくなって来る。この震えを鎮めてくれる唯一の存在。


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December 29, 2005

悪い人。

悪い人にならないと悪い人は分からないって。うふつ
だから軽く考えない方がミのためだって
覚悟があるのならお入りよ。うふっ
知らないよ。

慈しみの対象。
そして憎しみの対象。
不思議なものだ、かつて自分が対象の時代を生き延びた。
父母の愛を重く受け止める。


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December 20, 2005

弔い酒。

「死んでから思い出してくれるなんて本当っにあなたは良い人ね。」
いつもと変わらない慈愛に満ちた眼差しで人をなじる。

「死んでから呼び出したのは君じゃないか。5月に電話でニューグランドへ呼び出しておいてわざわざ出かけてみれば置いてけぼりでさ。その2ヶ月前、赤信号で身動き取れない俺の前を澄ました横顔見せてさっさと渡ってしまったのは君じゃないか。もうあの時が俺の知らない場所で君は覚悟していたんだね。」
ショットグラスを二つオーダーする。
バーテンダーはお連れ様はとは聞かなかったが、勘定の際に満たされたままのグラスを見やり如何しましょうと聞く。
「捨ててくれ。それで未練が断ち切れる。」

まあ実際今年は本当に疲れた。
親しい方が相次いで亡くなり訃報が届く。
また届かないなりに耳には入って来る。
やりきれなく心が傷ついてしまうのは、やはり自分よりも遥かに年下の人たちのあの世への旅立ちだ。
元気な頃、お互いがまさか死を境に両岸に立つとは思わなかった。
冗談が、笑顔が、ちょっと危ないシーンが、そんな時間の共有が懐かしく思える。


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October 01, 2005

やさしさの深度。

 ある本で読んだのだけれども、象も人間も鼠も一生に心臓が鼓動する回数は同じらしい。
 人間から見ると小さい生き物は短い生涯を送るのだが、その分鼓動間隔が狭く早打ちと聞く。
 金魚なんかもあっさり一生を終えたりするのだが、結構生ききった満足感はあるらしいと書いてあった。

 一匹の雄の金魚が、その朝、腹を上にして浮いていた。
 飼い始めて8年目の事であった。

 殆ど赤い鮒としか思えない姿形をしており、餌金の運命を縁日の金魚すくいでQ氏が変えてしまった二匹の内の一匹であった。
 偶然にも雄と雌であったため夫婦となり子供を4匹成した。
 水槽から死骸を引き上げるYに向かい「かわいそうだな」と言うと、その横顔が「あなたにそう言う資格があるのか、そう思うのなら何故面 倒を見なかった。」と返した。

 気紛れな一言が、Yを深く傷つけてしまったのかも知れなかった。
 本当の優しさには根気と強さが必要なのだ。
 Q氏はその人にまた一歩近づけた気がした。
 優しさの深さは愛情の深さに比例して行く。
 深さは潜って見なくては解らない。
 水面からは決して見る事の出来ぬものだからだ。
 それから一年後、雌の金魚が後を追うように同じ季節に死んだ。
 Q氏は、今度は黙って自宅の裏の雄の金魚を埋めた辺りに重ねるように雌の死骸を埋葬した。
 生きた事に満足しただろうか。
 夫婦であった事に喜びを見い出したであろうか。

 久し振りにしみじみとした口調でQ氏は語ると帰って行った。
 深さは時間と反比例したのか、現在Q氏の水槽にはYの思い出とともに遺児が二匹泳いでいるそうだ。
19980511quta


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September 29, 2005

うそつきね。

あなたはいつもそうやって嘘をつく。
でも分かるわ。
手に持つグラスの水面に嘘だ嘘だと同心円の模様が浮かんでは消えているもの。
いつもより饒舌だもの。
それもいかにも楽し気な話ばかり。

愚痴が鳴りを潜めたあなたは言葉とはまったく違う事を考えて私を見ている。
ううん決して見ていない。
私の口許だけだわ。
私が嘘つきと言い出すのを恐れているのではなく待っている。


長く付き合っていると良く分かるの。
あなたは嘘が付けない人だって事が。
自分を誤魔化す事がとても下手だって事が。
そして封じている事に恐怖をいつも持ち続けているって事が。

あなたは弱虫だから自分では言えない。
だから私が「嘘つき」と言うのを待っている。
馬鹿ね。

いいえ、違うわ。
あなたは弱虫でもなく下手でもない。
握った手はいつもよりきつく、抱く腕はいつもより強い。
隠し事が分かるようにわざわざそうしているって事が。

あなたは卑怯よ。
ふふっ、ほら。
やはり本当なのね。


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September 26, 2005

立会人

 都会の片隅で私は気ままな独り暮らしを続けていた。
  その朝、私は気分が優れず、髭を剃りながら覗く鏡の中の青い瞳も精彩を欠いていた。
  耳鳴りがひどく雑音に混じって誰かが自分を呼ぶ声が時々に聞こえて来る感じがしたからだった。
  気分が優れないのには、もうひとつ理由があった。
  一月程前に届いた召還の通知だ。
  無作為に選ばれた、市民の義務である死刑執行の立会人の任命であった。

  余程の事が無い限り無視する事の出来ない、今日がその日だった。
  駅で待っていると、その列車が到着し、乗り込んだ。
  希望により、出来るだけ明るく、多くの人に囲まれて死にたい、暗く狭い室内では惨めだと言う囚人の願は聞き入れられていたのだった。

  囚人は列車の中で液注による執行を受ける事になった。
  私は隣の車両から見守る。他の者たちは目を伏せていた。
  誰だって向き合いたくない立ち会いだからだ。
  囚人は私よりも若い女であった。
  精神安定剤を注入されていたのか、多くの光景、この世の色、形、空気の全てを眼に焼き付けて置きたいと願った女の眼は虚ろであった。
  執行の時刻が迫まり、白衣を着た三名の執行官のそれぞれの手に注射器が渡された。
  中の一本だけに死に至らしめる塩化カリウムが入っており、他の二本はリンゲル液だ。
  三本目が注入される。 確実に死に向かう薬が体液と出会った瞬間、穏やかに見えた女の眉間が微動し、目頭に涙がこぼれ落ちずに溜まっていくのが見えた。
  死に値する罪を犯しながら、自らの死に際の涙。
  私は思うのです。
  人は生まれながらの悪人では決して無い。
  純粋な魂が宿っていた誕生の瞬間より生きて行く為に少しづつ汚れて行くのであれば…。
  耳鳴りがひどくなった。
  思わず顔をしかめ、眉間に手をやり抑えようとすると、呼ぶ声が聞こえて来た。
  「私を助けて…。」
  顔を上げると、女の、今は涙の無い開いた眼の緑色の瞳と会った。
  「…。」 瞳に痛みを感じ、次いで意識が遠のいた。
  だが、確かに私は立会人としての義務を果たした。
  その瞬間を感じたからだ。
  係員が心とは裏腹に大丈夫ですか?と声を掛けて来て正気が戻った。
  耳鳴りは止まっていた。
  検察医が脈を計り瞳孔の拡散を認め囚人の死を確認すると、女のまぶたを手で抑えて閉じた。
  私は次の駅で書類にサインをして降りた。
  誰も私の瞳の変化に気も留めなかった。
  私は彼の肉体に、新しい住人として彼に変わって新しい人生を歩み始めたのだ。
  少しづつ汚れて行く為に。
  「彼」の「それ」と気付いた時の、最後の驚愕の瞳もやがては忘却の彼方へ消え去る事だろう。
  990709-991009(C)proseed corporation QUTA1999-2005


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September 13, 2005

喪失あるいは

 我々は日常の中で生きている。
 そして今もそれが当たり前のように暮らしている。
 伊豆半島から南に連なる火山フロント上の明神海丘の中央部には直径約5キロメートルのカルデラがあり、その北東の縁に外輪山である海底火山明神礁 がある。
 明治以後たびたび噴火を繰り返してきたが、1952年から1953年にかけての火山活動は活発で、後に消滅したが大爆発によって新島が形成された。
 1952年9月。東京の南方約420キロメートルの洋上。
 明神丸からの通報を受けた海上保安庁水路部調査船第五海洋は、明神礁の噴火に巻き込まれ遭難、31名が殉職した。

 同時刻、付近上空を航行中の極秘任務を帯びた米軍機は小規模の隕石が明神礁方向へ落下して行くのを確認した。
 爆発はその直後に起こったとの機長の証言が記録に残された。
 救難の為に現場へ急行した船舶は、海上に夥しい数の青白く発光するガラス状の浮遊物を確認し破片をいくつか採取した。
 
 2010年。
 医学の進歩には目覚ましい物があった。
 各国は特許の取得合戦を繰り広げており、あらゆる生命に関する特許が誕生した。
 記憶力の低下や見当識障害から運動機能障害へと進行する脳の変性疾患、アルツハイマー症候がある。
 脳内神経伝達物資アセチルコリンの濃度を高める薬物療法では症状の改善に留まっていたが、治療根治させるために2000年に開発されたコントロールもその一つであった。
 明神礁で採取されたガラス状の物質は、爆発当時の科学水準では未知の構造を持っており、解析不能であったが近年になってスペースシャトルによる無重力下での解析の結果 、地球上では再生不可能な物質と解った。
 物質はクタデロンとされ、脳内シナプスの活性化に非常に有効な酵素クタデロアミンが抽出された。
 クタデロアミンはクタデロンと共にある時にしか効果を発揮しなかった為、地球周回軌道上のメタルプラントでクタデロンカプセルを開発し、酵素を封じ込めた。

 当然のように特許で守られ中を見る事は出来なかったが、記憶を更新させる脳内神経伝達物資の高濃度化促進機能と脳幹の運動神経系をコントロールする機能を合わせ持つ仕様とされた。
 使用方法は簡単で抗体と融和させる為に、3CCの採血をし常温で3時間血液を浸透させた後に洗浄したカプセルを後頭部皮下に埋め込むだけで、ごく一般 的な整形外科程度の肉体的負荷で済んだ。
 某国大統領の劇的な効果はまたたく間に世界中の医師たちに歓迎され、発売から2年経った現在ではごく当たり前のように世間をカプセルだらけにした。
 特に権力の中枢にある人間は、危機管理の観点からも最重要項目として、カプセルの装着を密かに義務付けられていた。

 佐藤は、大学を卒業後、役所に就職し一年程前に統計局人口調査課の課員になった。
 その年に役所のパソコンが入れ替えられシステムの構築を任せられたが、ストレスから目眩と吐き気に悩まされるようになった。
 国体の体操選手としても活躍した彼はショックを受けたが、医師の診断と処方箋でカプセルを後頭部に装着させる事になった。
 ところが最近になって、恋人の静子とベッドを共にしても快感がまるでなくなり、瞬間の記憶が曖昧になった。
 カプセルを装着していなかった彼女は快感は有ると言う。
 つまり肉体は健康で感覚はあるのだが、到達感がまるで感じられずその瞬間に自分が何処かへ追いやられる感じがするのだ。
 とすればカプセルに本能を抑制する異常が発生したとも思える。
 心配になった静子は医院へ行くよう勧めた。

 佐藤の掛り付けの医師はカプセルの効果報告書にはそのような事は記載されていないと否定し、考え過ぎる事はマイナス要因となるのでセックスは継続するように言い、君は若いのだから心配するなとも言った。
 ところで田中が記憶の喪失を自覚したのは、近年の人口統計でモニターに映し出されたデータの変化の妙な点に気が付いた時からだった。

 出生率である。
 つい先頃まで医療の進歩による高齢化が進み、またさまざまな要因により若い女性が出産しなくなる傾向があり高齢化社会が顕著になったとされていた。
 だが、この10年間で出生率が死亡率を上回り、まるでベルトコンベアに乗ったような平均化が急速に進んでいたのだ。しかも死亡者が増加している。
 つまり従来の人口年齢分布図は独楽型ではなく単純な柱になりつつあった。

 これはおかしい、出来過ぎだ。まるで誰かにコントロールされているようではないか。
 そう思った佐藤はレポートをまとめ上司に報告したが、各国とも似たような状況で新しい病因もなく自然的な現象で、むしろ爆発的な人口増加による崩壊から地球が救われるとの回答があった。
 その前後から記憶が曖昧になった。
 しばらくして上司に呼ばれた佐藤は、君は少し疲れているらしい、指定病院の医師に掛かった上でしばらく休暇を取るようにと申し渡された。

 その日の午後、佐藤は恋人の静子に付き添われて国立病院特殊神経外科を訪れた。
 外来であったが前もって上司から予約が回っていたのかすぐに診察室へ通された。
 意外な数の医師に取り囲まれそんなに重大な症状なのかと不安になった。
 医師は問診の後、カプセルの調子が悪いのも原因の一つである可能性が高いと言い、それを外す診断を下した。  装着は簡単であったが、取り外しには慎重な判断が必要だった。
 以前、カプセルの特許を知ろうとした医師が何人かいたが、彼らは無理に患者の後頭部からカプセルを外し、その瞬間から患者の意識が混濁し始め重篤に陥った。
 幸い複数の人間が側にいた為、生命の危機は去ったが、以後植物人間になってしまった。
 世界保健機構はその為に通常の使用以外の行動は慎むよう、また取り外しには必ず専門医療機関の医師の処方が必要であるとの声明を各国機関に最優先事項として発した。
 オペ室のベッドに俯せになっていた佐藤は局所麻酔により催眠作用が働き、意識がおぼろになっていたが彼の耳に医師の言葉が遠くで聞こえた。
 自分に話し掛けているようにも聞こえるが違うような気もした。

─クランケの固体識別番号は17/21/20/1だろう。
─同志17/21/20/1聞こえるか? ─君のボディは脳に送られる念動を異常と認めたらしく拒否反応が顕著になって来た様子だ。
─疑問へのコントロールが不完全なようだが、君の酵素アセチルコリンエステラーゼへの働きが弱っているのではないか?3時間の接触時に固体のヒトゲノムを読み誤ったかも知れないな。スキャンが足りなかったかも知れない。
─これよりリサイクリング可能か調査するので、しばらく交信を途絶させる。
─そのつもりでいてくれたまえ。何、心配する事はない。すぐ済む・・・。
─ああ、忘れるところだった。今回の固体の異常を知っている人間は誰かね。
─チェンジ後に聞かせてくれたまえ。
 待ってくれ。何の話だ?いったい誰と話しているのだ。
 口にしようとしたがカプセルを外された佐藤の意識はそこで途絶えた。

 病室で覚醒した佐藤は、医師に求められるまま複数の人間の名前をカードに書き出した。
 カードを受け取った医師はしばらくそれを眺め席を外した。
 まもなく戻り、君の付き添い人は心配のあまり病院内で倒れたと言った。
 鎮静剤を打ったので問題ないと思うが念のため一日入院させる。
 ところで余計な事だが、君も疲れているようだから明日一緒に退院してリフレッシュ休暇でもとったらどうかと勧めた。
 退院後2週間の休暇を取り南の島へ二人で出掛けた。
 ベッドの中では最高に爽快な気分だった。
 静子の髪の毛をまさぐった佐藤の手は彼女の後頭部のふくらみに触れた。
 だが、それはすでに日常で当たり前の事だった。


─── 1952年9月に星間移動の最中に過って地球の引力に捕われた星間生命である彼らには実体がなかった。
  また不死であるから増殖の必要も無かった。
  一定の質量でコロニーを形成しその拡散を防ぎまた未知の有害物質から身を守る為に、自らの存在をカプセルに包んでいた。
  成層圏突入の空気摩擦による高熱にさらされた挙げ句に、海水による急速冷却でさしもの堅牢なカプセル構造も弛んでいた。
  偶然にも海底火山明神礁の爆発に遭遇した彼らは、ひとたまりもなくカプセルと融合してしまった上にコロニーが破壊され分散してしまった。
  海上に浮遊していたガラス状の物質がそれであった。
  地球人による抽出で、48年後に分離出来たのだ。
  ついでにクタデロアミンと言う名前までつけられた。
  彼らの日常で使われる念動は地球上では重力が邪魔をして、有効に働かなかった。 シャトルやメタルプラントで空間移動カプセルを再生する事も考えたが、例え出来たとしても移動させる為には全員の念動を必要とした。
  海底火山の爆発によりある者は蒸散し、また海底に沈み海水に溶け込んでしまった。
  仲間が地球上に分散し過ぎて一定の質量を確保するのは困難になった。
  したがって地球脱出は叶わぬものだった。
  案外地球の気候が気に入ったせいもあって、観念した彼らは次に地球重力下で活動する方法を考えた。
  しなやかな筋肉と関節の動きを持つ人類の肉体は彼らが活動する為の素晴らしい素材と言えた。
  何よりも地球の資源は有効に使わなければならなかった。
  寄生関係を結ぶ為に自分に最初に近付いた人間を念動でコントロールした。
  科学者が主だったのも幸いした。
  高度な才能とあくなき探究心は彼らを満足させたのだ。
  3時間の接触で固体のヒトゲノムは解読できたため、コントロールは容易だった。
  人間に悟られないようにする為、彼らにとっては雑作も無いある症状の改善という名目を立てたのだ。
  だが、人間は彼らと違い必ず死ぬ。
  活動を続けるためにカプセル装着による活性化した本能はうまくコントロールされ、それは生殖活動を盛んにし、若く健康な人間の肉体を生み出した。
  たまたま特異な年齢分布を異常と気付いた佐藤はその念動回路を一時中断させられ、そのためにノイズが発生して記憶がとだえたのだ。
(C)proseed corporation QUTA 2005


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September 05, 2005

契約

 メラニシア、ソロモン諸島、X島、南東部、現地時間二○三○。
  シダの葉影に伏せていた男は先程より蛭に喰い付かれる痛みを忘れていた。
  噴き出る汗が目に入ったが、それすら痛みを感じなかった。
  男は六○二部隊の通信兵で将校と共に斥候に出ていた。
  すでに制空権は敵に握られ、味方の砲弾に限界があった為、 後方の砲兵部隊に敵陣地の正確な位 置を知らせる必要があり、奥深く潜んでいたのだ。
  無線は傍受される恐れがある為に有線であった。

   ところが途中で肩に捲いた線が絡まり先へ進む事が出来なくなった。
  将校は男に修復次第追い付く様に命令し先行した。
  あせりが男を支配し、やがて途方に暮れた。
  その時、頭上に橙色の光の断片が連続して北へ飛ぶのを認めた。
  男はぼんやりとあれは魂が祖国を目指して帰るのだなと思った。
  追い掛けるようにヒョーと唸る音が続いた。
  光跡を眼で追った男は通話機を取り上げるとレバーを回した。
  敵の一斉射撃であった。
  光は味方の陣地へ向かっていたのだった。
  ジジッ、ジジッ、雑音だけが耳に届いた。
  飛んだ光の量を見れば、各地を転戦して来た男にも味方の現在状況が容易に想像出来た。
  ふいに背後から意味の解らぬ会話がして男の肉体は硬直した。
  まぶたを閉じれば恐怖から一瞬でも逃れる事が出来たが、男は却って今まで以上に大きく見開いた。
  視野を拡げる事によって状況の把握を計った。
  斥候は止むを得ない事情が無い限り戦闘行為を働いてはならなかった。
  万一敵の知る処に至るならば、それは斥候の使命を果たせなくなるからだった。
  あくまで影に徹していなければならなかったのだ。
  だが、男は絶望と恐怖から、緩慢な動作で立ち上がりながら振り向いた。
  その両手には銃が握られていた。
  胸部に大きな衝撃を感じ、男はどうっと仰向けに倒れた。
  激痛が襲って来た。
  「約束が違うじゃないか。俺は不老不死を願ったのに、何故?」
  薄れて行く意識に自分を呼ぶ女の声が通話機から聞こえた。
  「契約を良く読んでよ。何遍でも生き返る事が出来るとしか書いていないわ。」
  「…。」
  「その為には死ななければならないし、まして痛みを伴わないとは何処にも書いていないわ。いつか何処かでまたお会いしましょう…。次も人間とは…限ら…ない…け…ど…。」

  990828-990909(C)久多@麩羅画堂1999


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May 16, 2005

合鍵。

昨日は光は眩しく風は優しく新緑は心地よく絵に描いたような素晴らしい天気だった。
さすがに心身共に疲労を覚えたので休日とした。
総会が正午まで続いたが特段難しい議題も無く紛糾する事もなかった。
このまま何事も無ければカーテンの揺れに任せてまどろみの一日を過ごしただろう。

山下公園の前にそのホテルはある。
古い建物なのでティーサロンの天井は低い。
石造りのため窓は小さい。道と中庭に面した薄暗い部屋だ。
静香から携帯にメールが入った。
そこには逢って話をしたいが事務所は嫌だと打たれていた。
では今日は天気も良いからNGホテルへ行くと答えて出かけた。
光の中を何も考えずに歩くのは気持ち良いものだ。
いや人の作り出すものより人を作り出したものの偉大さの前で人の考える事など何ほどのものかと言い直すべきだろう。
彼女は先に着いてオーダーも終えていた。
いつもの事だ。


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January 20, 2005

残像美女。

定着されたものが真実とは限らない。
叔父が死んで数日後、小母から宅配便が届いた。
開封すると、蛇腹式、レンズシャッターのクラシカルな写真機が現れた。
生前に叔父が愛用していた写真機だった。
あなたは写真機が好きだから形見として進呈する。長く使っていなかったので痛んでいる部分もあるが、失礼とは思ったが好きな人に使ってもらった方が夫も喜ぶだろうと、同封の手紙に書いてあった。

その重量感と質感はハンディなデジタルカメラでは得られない所有欲を満足させた。
さっそく懇意にしているカメラ屋でブローニー判のフィルムを購入し撮影してみた。
同時プリント密着焼きとして現像に出した。
翌日、印画紙に定着された画像を見た途端、叔父が永年愛用していた訳が理解できた。
少しの不安もあったためモノクロだったが、それが良かったに違いない。
普段は愚痴ばかりの店の親父も久し振りのモノクロ現像に興奮し、大きく引き伸してみたいと前向きな事を言った。
それは柔らかく美しく見る者の精神を安定させた。
僕がその後、その写真機の虜になったのは言うまでもなかった。もちろんモノクロ専用とした。
対象は意識するしないに関わらずシャッターを切っていたが、中には女房の顔も含まれていた。

写真機にはフィルターが三つ付属していた。
何故か一つだけケースに入っており接着剤で固く封じられ「禁」の表書きがしてあった。
ヒビでも入っているのかと思ったが外から見る限り何の支障もないようだった。
こじ開けて写真機に装着してみた。
現像から上がって来る画像を見ても何も変わらなかったのでそのまま存在を忘れた。

ある日、連れ合いの日常と題して彼女の一日を撮影し現像に出した。
翌日店に行くと、親父が怪訝そうな目で僕を見てしかし控えめに言った。
「奥様が奇麗に撮れてますねえ。とてもお若い。それともこれ。」と小指を妙に曲げる。
馬鹿な、世辞を言い合う間柄でもなかろうにと印画紙を見ると確かに彼女が写っているが少し違う。何が違うのかはっきりしないが恐らく光の回り方のせいだろうと思った。
自宅に戻り女房に見せると開口一番
「嬉しい。だけど何だか気味が悪いわ。自分でないみたい。」と言った。

それでも若く写った事に対して大層喜んだ様子で翌日も写して欲しいとねだって来た。
現像に出しては喜ぶの繰り返しのうちに、僕はカメラ屋の親父に嫉妬し始めた。
いの一番に美しい女房を見せるのが苦痛になって来たのだ。

現像キットを購入した。家計に余裕も無い筈だが今回は特に反対もされなかった。
にわか暗室となった酢酸の臭いの立ちこめる書斎で毎晩のように、フィルム現像、印画紙焼き付けが繰り返された。

一ヶ月も経った頃、不快な臭いがすると通報があり警察官が訪問した。
家の主人が目の下に隈を作って応対した。明らかに寝不足が重なっているようだと察せられた。

・・・

僕は彼女がこの上も無く美しく感じたんです。僕はファインダーの中の彼女しか愛せなくなった。ベッドの中でさえカメラを向けなければ行為を完遂できぬほどにまでなったのです。
この美しさを永遠に封じ込めたいと思って夢中でシャッターを切ったのです。彼女は僕だけの物であって欲しかったんです。ぶれるのが嫌なのでじっと動かないで欲しいと言ったのです。
で奥様はどちらへと聞くと、彼は快活に立ち上がり寝室に向かって行った。
「あそこですよ、ほらベッドの上、恥ずかしいのかシーツで隠しているけれど・・・ほら、このカメラでご覧なさい。」

これの何処が残像なのよと言う突っ込みはご遠慮くださいf(^^;


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January 19, 2005

壁/スリット

僕は独立してからしばらく自宅で仕事を続けていたが、法人化するにあたり都心部に事務所を開設する事になった。
今でこそ高速なネットで結ばれた環境だから距離を感じなくて済むが、当時は電話とファックスのみであったし、連日の会議や折衝、接待で郊外に居を定めていると不都合が多かったからだ。

おかげで公的機関やクライアントも近くに存在する事になり仕事がスムーズに進む結果となった。
事務所を都心に構える事で金融機関の覚えもめでたく度重なる融資にも快く応じてくれるようになった。
環境もまずまずだった。
街路樹が生い茂り春から夏に掛けて野鳥が飛来しバードウオッチングを楽しむ事が出来た。
バブルな時代だったのだ。

しかし時代は不況。
相次ぐ地上げや固定資産税、相続税、都市開発などで周辺環境も激変した。
以前はブラインド越しに空が見えていたが、巨大なビルが建つに連れ壁が目立って増えた。
だがそれもまだマシであったかも知れない。
いずれも距離があったからだ。
ところが目と鼻の先に高級マンションが建設された。
スパンが長く重厚なタイル張りであるから威圧感甚だしい。
これでまったく閉ざされた空間になってしまった。
何しろマンションのバルコニーが事務所の方を向いているから同一階だとプライバシーもへったくりもない。
鬱陶しいばかりの存在になり自然にブラインドは薄く開けるのみとなった。

ある日の夜。
明日に控えたプレゼンの為の資料をエクセルに落としている最中の事だった。
目を休ませようと何気なく窓をみやるとブラインドのスリット越しに道向かいの部屋に明かりが灯ったのが見えた。
それだけなら何の変哲もないが、開け放した窓に女の姿が現れたのだ。
シルエットになったり照らされたりしているうちに美人である事が判明した。
息抜きに格好の時間を与えてくれた神にささやかな感謝をしつつ、さっそく備品の双眼鏡を取り出し観察を始めた。
いやいや嫌らしい事を想像したのではなくあくまでも観察である。
良く観察する事が大切だと有名な方も仰っていたから何等後ろめく必要もなかった。
実践こそ大切なのだ。

こちらのブラインドが落ちている事に気を許したのか女は全開の窓を額縁に大胆に脱ぎ始めた。
あらら、あんたが悪いんだぜ。
女は剥がせる物は剥がし、取れる物は取り、落とせる物は落とした。
ゴクッと唾を飲むその音に自分で驚く程熱中していた。
やおら女はこちらを向きブラインドを落とした。
ありゃ!気がつかれたか?次の瞬間ブラインドは薄く開かれ何度か同じようなスリットを見せる開閉になった。
何だろう?

バシャッバシャッバッ・・・バシャッ、バッ・・・バッ・・・バッ・・・、バッ・・・バッ・・・バッ・・・、バシャッバッ・・・バシャッバシャッと繰り返された。
遊んでるのか何かの意味があるのか再び観察を始めた。
スリットから見え隠れするその肢体に増々僕は興奮した。

女は遊ぶのに飽きて来た。
「あの馬鹿、先日も覗いていたわね、そんなに裸が見たいのなら見せても良いわよ。だけど欲しかったら逢いに来りゃいいじゃないのさ、夫婦なのに。」
トントンツートン、ツーツーツー、ツーツーツー、トンツートントン・・・モールス信号はFOOL!


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January 18, 2005

ソーシャルネットワーキングサイト/幻覚

私にとって毎日が素晴らしい事象で満たされている訳ではないが、毎日同じである事には耐えられない。
それを救ってくれたのがソーシャル・ネットワーキングサイトだった。
その日もインチキな文章を書き散らしていたが、ふと気になりアクセス通知を覗いてみた。
今思えばそれが私が異界に引き摺り込まれるノックの音だったのだろう。
私は逃れる事の出来ない世界から現在これを書いているのだから。

その日。
私はにわかに動悸の嵩まるのを感じた。
偶然に目にしたニックネームは「静香」だったからだ。
いや、そんな訳がない、これはただの偶然だ。
100,000名もの人間が参加しているこのネットだし実名をニックネームなんかにしている人はいないはずだ。
自分に言い聞かせるようにそのページを閉じた。

しかし翌日もその次の日も虫が知らせるのか、我知らず通知を開いては現れる「静香」の名前に不安にかられた私はついに決断をした。
このシステムはリンクが全員に張ってあり訪問者を特定できる。
訪問すれば私が訪ねた事が相手に知られる。
危険であったがいざとなれば脱会すれば済む事だ。
それですべては終わる。
ネットの気楽さに背中を押されて「静香」をクリックした。

それは思う人間ではなく、まったく別人だった。
安堵した私はしばらくそれを忘れていたが、二週間を経過した辺りだろうか再びアクセス通知を開いた。
既に蜘蛛の巣に堕ちていたのか、「静香」の表示に何の感慨も起きなかった。
しかもクリックした相手は二週間前の「静香」の女ではなかった。
そうか別人であってもニックネームは同じであって不思議ではないなと合点した。
翌日も同じように「静香」が現れたがやはりまったくの別人だった。
その時点で日常に捨てておけば良かった。

好奇心は時として身を滅ぼす。

次の日もそのまた次の日も同じ事を繰り返していたが、ふと全ての訪問が同じ時刻、始まりではなく終わりの時刻23時59分である事に気がついた。
履歴をひっくり返すと入会時点から続いていたのだ。
私はここで取り返しのつかないミスに気がついた。
いくらニックネームを名乗ってもアバターで面が割れてしまった事を。
なおかつ連日クリックした事を。捕捉された事を。

「静香」は捨てた女だった。
近づいて来たのは「静香」であったが好奇から付合い始めやがて疎ましくなり逃げるようにして事務所を変えたのだった。
郵便物は1年間は転送される。
差出人「静香」から一言「怨みます。」の文面が毎日のように届き365回目を最後に20年経ち記憶から消えていた女だった。
私は彼女の人生を変えた訳でもない。
そ・の・ま・ま・に、しただけだった。
所有欲が強い女に辟易した私は自由を求めただけだった。

罠に掛かった事を自覚したがもう遅い。
まもなく招待のメッセージが届きモニターが暗転し、記憶から容赦なく抽出された顔が映った。
「ふふっ、やっと捕まえた。早い物だわ、死んで20年も経つのね。あなたはお顔が随分変わったけど、私はほら、昔の美しいまま。えっ何とか言いなさいよ、昔のようにさ嘘でこねくり回した甘い言葉でさ、あげくに逃げ場を失ったあなたは私を自殺に見せかけて殺した。いえ怨んでなんかいないわよ、そりゃ死んでしばらく彷徨う時には追いかけたけどさ。でも今日あなたに逢えてシアワセ。黙ってないで何かお言いよ。あらっお口がなくなったのね。じゃあさ目も無くしなさいよ、次に耳ね、さあっ次は何を無くしたいのさ、手?良いわよ、体ごと頂くわ、こっちへ来て・・・」


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January 17, 2005

妄想列車/光る席

今朝、老婦人に席を譲る青年を見た。
空いた席もないまま、疲れから座っていたように見えた彼は黙ったまま席を立った。
気紛れであったかも知れないが、とにかく老人には席を譲るものだと教えられそれを素直に実行したものと思われた。
彼は幾分照れ屋でもあったし回りの乗客から好意の視線で迎えられるのは気恥ずかしかったようだ。
その為に偶然を装い隣の車両に移ったと思われた。

さて、くだんの老婦人は青年の好意が嬉しかったが、唐突に立って去った青年に対して謝意を述べる時間がなかった。
また生憎の事に膝が悪く次の駅で降りる為にも座るのは遠慮せざるを得なかった。
したがってやはり立ったままであった。
しばらくして青年は自分の善意が受け入れられたかを確かめたくなった。
これから逢う彼の恋人に少し自慢げに話したくなったのだった。
恋人は付合ううちに青年が結婚を申し込もうと思う程に素晴らしい人だった。
自分をアピールしたいという気持ちが起きても何ら不思議ではなかった。
乗客の肩越しに何食わぬ顔で覗いてみた。
ところが席は空いたままであったから、少しばかり残念な気持ちになり思わず老婦人に対して訝しげな視線を投げ掛けてしまった。
老婦人は善意の主を忘れない誠実な女性であった。
感謝の念を持ったまま隣の車両に移った青年を見ていたから彼の視線をまともに受けてしまった。
彼女は理由を述べようと思ったが余りに離れ過ぎていたし騒音もあった。
軽く会釈をするに留まった。
青年は己の欲を恥じた。
人は誰でも悪意や妬みは嫌うものだし心の底に仕舞いたがる物だ。
また善意は消え易く悪意はわだかまりとなって残り易い物だ。
彼は、他人を試そうと考えてしまった事、結果を期待した事を後悔した。
こんな気持ちで自分は恋人に逢う事が出来るのだろうか。
忸怩たる思いから老婦人の視線に耐えきれなくなったその瞬間、彼は自分の目を疑った。
老婦人の座るべき席に知った顔が在ったからだ。
それは眩い光に包まれ彼を見つめたまま静かに微笑む恋人であった。
彼の周囲から一切の騒音が消えた。
彼女は傍にいるかのようにいつもの口調で静かに話しかけて来た。
「それで良いのよ、人は常に善人でいられない、時には妬みの感情も必要なのよ。大切なのは自分に恥じる心を持つ事。自分を厳しく見つめる心。それを知るあなただからこそお付き合いをさせていただいているのよ。そんなあなたが好きよ、いいえ愛しています。これで恋人卒業ね。」
彼が老婦人の笑みに気がついたのは、そろそろ駅へ到着と車内アナウンスが告げた瞬間だった。


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January 15, 2005

妄想列車/忍び寄る者

朝、老婦人に席を譲る青年を見た。
青年は本を読んでいたし、彼の前に偶然に立った老婦人はテニスラケットのケースを肩に掛けていた。
彼は黙って席を立ち隣の車両へ移動した。
「どうぞ。」と一声掛ければ闇の世界へ引き摺り込まれる事もなかっただろうが、残念な事にその席はJRの定める特別な席だった。
声を掛ける必要もなければ掛けられる謂れもなかったのだ。

だが、「どうぞ。」と一声掛ければ、かくしゃくとした老婦人は「いえ、結構です。ありがとう。」と言葉を返してくれたに違いなかった。
しかし彼が謝辞を期待していた訳でもなかったのは間違いない。
単に老人には席を譲る物だと教えられそれを素直に実行しただけだ。
しばらくして彼は何気なく本から目を離し老婦人の方を向いた。
青年の立つ位置からはその老婦人の姿が見えたに違いない。
その瞬間彼は自分の行動が無意味であった事を悟った。
老婦人は以前と変わらぬ位置に立っていたからだ。
同時に自分では気がつかなかった良い事をしたという自負心に負けた。

善良こそ悪魔の糧となる。
彼は反芻した。俺は何故立ったのだろうか、自分に対する自己評価に点数を付けたかったからか、いやそれは違う。では何故あの婦人が立ち続ける事に残念な思いがよぎるのだろうか。

悪意が増殖する。
俺の好意を何故無視するのだ。座る気がないのなら別の人間が座り易いようにどけよクソババア。

悪魔がほくそ笑む。
そう言えばあの女さんざん思わせぶりな態度で俺に金を使わせ今朝になって友達でいましょうねとケータイにメールを寄越しやがった。
別れて10分後だぜ、糞っああっ忌々しい。
そんな朝だったから気分を変えようと爽やかにわざわざ席を譲ったのに。
あれっ俺はやっぱり代償を求める為に立ったのか?何だ俺は偽善者なのか。
いや俺は善人だ。
あのババアの存在が間違ってるんだ。
あいつさえ居なくなれば俺はこんな馬鹿な事に時間を取られずに本を読んでいられたんだ。
いやババアだけじゃない、知らんふりしやがって俺を間抜けと思っているお前等も、こんな気分にさせたあの女もこの世から居なくなれば・・・

忍び寄る。
あれっ何だこのカッターナイフ。
ああ昨日アルバイト先からくすねたやつだ。
あの店長も同罪だ。
無能扱いしやがって首にしやがったからな。

その時、まもなく駅へ到着すると車内アナウンスが告げた。

・・・お忘れ物が大変多くなっております。
大切な事は今一度お確かめくださいますようお願い致します。・・・
彼は鼻白んだ。
寸での処で闇から解放されたのだった。


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January 14, 2005

アルコール中毒

才能豊かな人は自身から発想がぽこぽこ生み出される。しかし残念な事に小生は凡人だ。インスパイヤが常時接続を必要とする。だから何もないと何も生まれない。トラブルとまでは行かなくともアクシデントを好む妙な生き物だ。しかも条件があって酔い足りなくても酔い過ぎても駄目なのである。前者は知覚が鋭敏にならない。日常が日常で過ぎてしまうからだ。後者は時に不思議を見て自己陶酔に浸れる事があるが所詮お猿のアレ。翌日には二日酔いの不快感に負けている。

丁度良いのが「ちょっと酔ってしまったかな。」という台詞が出る辺りだろう。最も五感が総動員されてすこぶる快調な精神状態である。ああ断っておきますが仕事じゃないですよ。あくまで作品に集約する要素を収集するゴミ拾いの事です。
車中に於ける四人の女の関係考察のお話。
車中でケータイをパコパコさせる女は男がいないか、いても未だ希薄な関係を前提とする。
親友って良いです。何でも包み隠さず話せる。例え一人の男を巡る駆け引きだって酔っていればデリケートな問題まで人前でもチクリチクリと言外に負けないわよって聞こえるのにお互い微笑みながらね。終いにはどちらに早く返事が来るかデザートを賭けてケータイメールを打つ。まあ良く在る話だ。
傍らに別の女が座って居る。服装は前述の二人より地味だ。大きな声で話す二人を眠りを妨げる迷惑な存在としているが、心からそうは思っていない。しかし内容の幼さに10分ほどしてバッグからチュウインガムを取り出し噛み始めた。あきらかに飽きた様子だ。
問題は四人目の女だ。吊り革に手を添えて傍らに立っており、さらに地味だが凛とした雰囲気を持っていた。明らかに聞こえている筈なのだが、まったく無関心であり表情が変わらない。微妙な変化が現れるのはそろそろ駅へ到着と車内アナウンスが告げた瞬間だった。ある世界から急に現実に引き戻される、はっと我に返るあの瞬間だ。窓に映る自分の姿を認め狼狽したかのように小鼻が膨らみ口元が緊張し、瞬きが多くなった。自分を意識したときの動作を忠実に再現した。
御主聞いていたな。
小生は一見謙虚で清楚な印象を持つ彼女に大いに関心を持った。
心の動きをインタビューしたいと思ったがそうもいくまい。想像するしかない。実は現在止まっているシナリオでどうしても書けない部分があって困っている。まあ創造(でっち上げとも言う)するしかないのだが、芯の疼きや言いたくても言えないウエットな感情は明らかに男のデリカシーと異なる。
2004年7月抜粋


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November 08, 2004

或る創り事。

昨日江の島へ出かけた。目的は弱くなりつつあった日常への耐力の再構築と江の島の猫を取材する為だ。
猫谷物語第一部で谷を追われるクロが新天地を目指すが第二部島猫の章でイメージは固まっていたが地形の詳細があやふやだったので今回確かめた。実際の島猫はだれてしまって使い物にならんかった。

耳が熱い。
風もないのに髪の毛がそよぐ。
みだれもせぬのにざわと鳴る。
何も起き得ぬのに何故あなたと逢うと胸がこんなにもときめくのかしら。
この口紅だってマニキュアだってみんなあなたのため。
でも愛する事とときめく事は価値が違うのよね。
本当のあたしは主人の前でしか開かない。
だから何か起きたらあなたを加害者にはしたくないから、あたしがあなたを殺す。
本当のあたしを知らないままで閉じて欲しいの。
といった感じで頭から入らないと手が動かない特質如実。


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October 04, 2004

嘲笑う蠅の如し

昨日は雨が降って寒かった。スレンダー美女の臍出しお姉さんがいらしたが、寒いのか手を摺り合わせ暖を取りついでに首筋から胸にかけてもすりすりしておった。あたしゃ最初クリームでも塗っているのかと思ったのだよ。もっと格好良くしようよ。
ちょっと最近文章が短いのは、いろいろと重なっている状況もあるが頭が整理されていない証拠。こう言った時に論理的でない頭を悲しむね。

狡い。
あなたは狡い。いつもそうやって物事から逃げてばかり、その癖、後になって悔やみ事ばかり。あの時ああしていたら、こうしていたらと。どうせ、あなたには端からやる気もなかったくせに。さも悔しそうなふりをして私を騙すのね。分からなかったとでも思っていたの?あなたの、その、へたくそなお芝居をずーっと眺めていたのは私よ。結局あなたには勇気がないのよ。体裁の良い事ばかり言って善人ぶってさ。根性なしのあなたには心底愛想が尽きたわ。これっきりにしましょう。オ・ワ・カ・レ。


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October 03, 2004

創作。

いろいろな事があれこれあって、言ってみれば自ら創作支援してる状態と。まあ雨も降っているし・・・
最後の一行。
鏡(かがみ)
 水銀の鏡の如き女の目は、ほんの瞬きも見せぬまま男を捉えていた。
刻の眷属(こくのけんぞく)
 時から逃れる事叶わず。
cicada's(せみ)
 カーテンを引き破り二つの裸体を朝の光に預けた。
竹女 (ちくめ)
 竹女の囁きだけが聴こえた。
猫谷物語(ねこがやつものがたり)
 守る事は生きるという事である。生きるという事は闘うという事である。野性とは死ぬまで生きるという事なのだ。
竜宮異聞(りゅうぐういぶん)
 鼓動が鳴る。
女鬼(めき)
 ?
墨女(ぼくじょ)
 下に哀れなるは絵に魂を奉じ、自らを裏切り否定したが故に、己の分身に喰い殺された男の末路であった。
ああ「威」ってのもあったなあ。
と言う訳で何とか9月30日の馬鹿をカバーした。リンパも映画もお預けだ。ちゅうかもうやってない。秋の高野山展に期待しよう。かな。今日は肩が痛んだ。ぐりぐりとリハビリ。聞いた話だと五十肩が治っても患肢に力が入らないそうだ。それが機能障害。やば〜・・・まっ痛みが消えればええんよ。


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October 01, 2004

とにかく仕事だ。

損失の昨日は忘れて明日の利益を目指そう。

最初の1行

 相模の国、六浦の在に人里離れて館があった。
刻の眷属
 脳はすべての幻覚を生む。
cicada's
 天空が霞を纏う夏の朝の事だった。
竹女 (ちくめ)
 吹き渡る風は、竹の葉を、私がいちばん嫌いな朝の通勤列車の人の肩と肩のいがみ合いのように摩擦し熱を帯びながらも一種のなげやりな態度のまま、通り過ぎ、ざうっと音を立てさせていた。
猫谷物語
 ある日の事。惰眠を貪る若い野良猫の前に烏が舞い降りた。
竜宮異聞
 命、男之を費やし 女、之を紡ぐ
女鬼
 島並みを挟んで北に中国山脈がたおやかな稜線を描き、南に石鎚山を主とする四国山塊が荒々しくそびえる。
墨女
 頃は魑魅魍魎の跳梁跋扈する平安末期。


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July 30, 2004

舐める女。

「あんた、それって女を舐めてない?」苛立ちそのままに灰皿に小刻みに煙草の灰を落としている。ぎゅっと潰すと両の腕を組んだ。自然、胸が盛り上がる。黒皮のスカートから伸びた足は黒の網タイツに被われているがその粗さは殆ど用を足していない。テーブルがなかったら目のやり場に困ったであろう。「あんたは生意気な女が好きだってあたしに言ったじゃない。それを何?今さら傷を舐めてくれる女が欲しいって言う訳?」「あんた、あたしの事を生意気な女だと思っていた訳?で、もういらないとでも言う訳?で、何?あたしがいつもあんたに好き放題言っていた、そしてあんたが一生懸命背伸びしてあたしに付いて来たって言いたい訳?」「馬鹿も休み休み言いなさいよ。あんたの希望通 りに一生懸命だったのはこっちよ。あんたはねえ、いっつもそうやって自分の都合で生きている。想像の世界と現実をごちゃ混ぜにして生きている。」


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July 29, 2004

潰れる女。

「酔ってなんかいないもんね。」言いながら女は崩れて行く。砕けるように沈み、やがて尻餅をつく。「酔ってなんかいないからね。酔っているのはあたいの肉体。あなたの目はちゃんと見ているからね。あなたが今のあたいをどう思っているか、はっきり分かる。ええ、別 れてあげるわよ。隠したってちゃんと分っているんだ。何時言い出すか待っていたんだ。酔わなければ言い出せないあんたの事だよ。だから一緒に酔ってあげた。だけど、そんなだらしないあんたの事、好きだった。しょうもない二人だからしょうもない別 れ方だってあるよね。心配する振りをされるくらいなら、いいわよ、このままおいてきぼりにして。」「構わないから行ってよ。あたいは自分で帰れるから・・・」


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July 28, 2004

ブーツを脱ぐ女。

「分っているわ、どうせ通り過ぎる男だもの。」マニュアル記載の制服を脱ぎ、私服に着替えた女は自分を取り戻すかのように微笑んだ。束ねた髪の毛をほどくと「自分にはもう飽きたわ。結局、そこは何も感じなくなっちゃったし、とっくに麻痺しちゃったし、男に媚びるしか能がなくなって、お金で全てを置き換えて、この世に生んでくれた親にさえ感謝の気持ちも失って、何を失うのかさえ忘れてしまって・・・」 「許すとか許されるとか、そんな事も考えられなくなっちゃって、もう終よ。良いのよ、あなたが私を救えるはずないもの。そんな事言っていたら、あなたも自分を失うわ。」「たった今だけで、束の間のそれで良いの。溺れて深く沈みたい、願いはそれだけ、私を抱き締めて。」


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July 27, 2004

電話の女。

「問題はねえ」。身体にフィットした黒のワンピースにやはり黒のジャケットを羽織る女。ソバカスが浮いた顔の中で赤い口紅の形が動き出す。大きな瞳は見据えたままだ。「あんたに松屋のテイクアウトを領収書を貰って帰る女が想像出来る?」「でさあ、四畳半の部屋のシングルベッドで何時掛かって来るか分からない男の電話を待つってさ。」「掛かって来た電話は親な訳、それでさ食べてる?って聞いて来る訳。食べられる仕事を持っているかって。」「今日が娘の誕生日だなんてすっかり忘れられちゃってさ。」「あたしは海亀かい。はは。」「一人でさ、とっくに冷めた松屋のテイクアウトに蝋燭35本刺してさ。笑っちゃうよね。あんたはきっと笑うよね。涙流しながらさ。」「女が一人で生きて行ける時代だけどさ、あたしだってこうして生きている。生きている事自体、悲しいけどさ。」


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July 26, 2004

激高する女。

女が激高しているのは分かる。体中の血液と体液が沸騰して目が膨らんでいる。男はその視線を避けて後ろを向かざるを得ない。男の背中は女の身体の起伏を痛いほど感じる。男の耳辺りから頬にまとわりつくように薄荷の薫りがして、やがて「嘘なら許してあげる。」「本当だったら殺してやる。」男の腕に女の爪が食い込む。「ここから突き落としてやるからね。あたしは本当の事しか言わないよ。えっ、どうなの?」


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July 24, 2004

寒くないです。

革のミニスカート、ジャケットの下は黒のストッキングとTシャツの出で立ち。別 に私が好みの服を書いているわけじゃないです。ブルージーンズの時の方が多いですね、彼女の場合。握手すると大抵の女性は手が冷たいが彼女もそうです。雪女のイメージそのものですね。もっとも全身が冷たい訳でもないでしょうが、私は知りません。「ストッキングだって結構暖かいです。ババシャツも着てますから。やだー、薄いやつですよ。」「私、これでも脂肪があるんですよ。」「何にやにやしているんですかあ?あっ、そのチラ見止めて下さい。見られている方は敏感に感じるんです。女の子に嫌われたくなかったらその習慣止めた方が良いですよ。嫌らしいと思われちゃいますよ。じろじろ見られるのも嫌だけどチラ見はもっと嫌。」「ああっ、やだ、筋肉だってありますよ。ほら。」


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July 23, 2004

別にー。

髪はショートで染めていない。しかしワインレッドのぴっちりとしたワンピースを着ている。煙草の煙を吹き掛けながら「エネルギーなんか使ってないですよ、私そんなにごつくないもの。」「モッコを担いだり、シャベルで掘る訳でもないしさー、リキュール飲みながら指先でキーボード触っているだけですもん。」「皆が変化を楽しんでくれたらそれでいーんじゃありませんか。報酬がある訳でもないしね。自分のサイトだもん、自分の作りたいようにしているだけ。それだけ…。」「でもさ、実はね、本当はさ、私の大切な良い男(ひと)が自分を振り向いてくれるのを待っているんだー、変わって見えるのは感情の傾斜のせいなんだけど、なかなか気が付いてくれないけどねー。ところでさー、あんたには分かったの?」


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July 22, 2004

嘘の女。

「嘘つき!」雨が路面から打戻され白く濁る土曜日の海岸通りのバー、カウンターから離れた窓辺の席、黒のニットからVの字に透けるような白い肌が覗く。空のグラスの縁を白い指がなぞる。指についた塩を蝋燭の炎に振り掛ける。瞳の中の炎が強い憎悪に変わる。「ジ、エンドって訳ね。もう少し上手に騙し続けて欲しかったわ。あんたが嘘つきってのはとっくにお見通 しだったわよ。だから騙された振りを続けていたのに、それをあんたが告白するから何もかもおじゃんだわ。良いの、どうせあんたに実体なんかないんだもの。嘘を誠意と感じていられる時間だけあんたと付き合っていただけだからね。」「はっきり言ってあんた馬鹿だわ。芝居を続ける勇気もない癖に嘘なんか付いて。これからは女に嘘を付く時は、もっと真剣についてよね。ライトなお酒で酔いました、なんてガキじゃあるまいし、でないと・・・」


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July 21, 2004

知る女。

「はじめて出会った時から知っていたわよ。」カーディガンの袖から白い指先が覗く。中指の腹で人さし指の爪をさする。「私に好意を抱いていたのははっきりとね。でも結局あなたは何も言わなかった。怖れていたのかしら。」指遊びを止めた手はすでに固く握りしめられている。「欲しかったのは何?哀れみ?同情?心?肉体?どれでもないようで、どれも当てはまるわね。あなたは自身が何を求めているか分からず戸惑う内に私の幻想が次第に大きくなって行くのを怖れたのね。だから何も言えなくなった。一度言葉に変えると大切な物が失われるかも知れない、ただの所有欲ね。あなたいつも計算だわ。」「何もかも求めている錯覚が私自身すら見えなくなって来た。違う?本当は何?逃避の道具だったら私はご免だわ。ご免こうむります。私はあなたのおもちゃじゃない。」


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July 18, 2004

分岐の在処

桜の樹木の皮を撫で、ケヤキの下でじっと見上げる。野良猫を飽かずに見続ける。地面 に落ちた枯葉を拾い上げては一枚一枚手持ちの本に挟み込んで行く。こんな自分もきっと他人から見れば距離を感じさせてしまうのかも知れません。他者との距離は前もって計る訳にはいきません。ある日突然接近し密着するかも知れませんし、また同様に離れ疎遠になる事もあります。だからこそ一期一会が大事である。徹する事こそ大切である。一瞬だからこその読みの深さが求められる。僕はそう思います。それをどう捉えるかはまさに当事者の器量 にかかる。僕はそう思います。ただ言える事は、満ち足りた人間は寓話は書かない、事実のみを書くのみであろうと。満ちていないと言う事は現実に不満や不平が存在しているとは限りません。欲望の代償行為でもありません。形の無い寂寥感を埋める行為なのかも知れません。自分の精神に分岐をもたらした者は例えば同い年の男の友の死であったりします。それが男らしい男であればなお友に恥じない自分を自身に要求するようになります。それが分岐の在り処です。


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July 17, 2004

分岐の在処

昨日、あるサイトの写 真の中でこの角度を持った少女(厳密に言うと少女ではない)を見ました。現実にも何度か当事者として見た事があります。腫れぼったい目をしていました。泣いた後か、溢れるものを必死で押さえ込もうとしているのか、それは分かりません。でもカメラに向かって自分自身の発露を妨げずにいながら、それをレンズで捉えフィルムに定着させたカメラマンとの間に一種の距離を感じました。現実には自分はうろたえ、カメラは静謐を保っていた。カメラと自分との距離も感じました。冷酷に徹し切れない自分が在ります


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July 16, 2004

分岐の在処

多面 体で捉えなければ人間と言う生物は本来描けないものですが仕方はありません。したがって性的に差別 が出て来るのは止むを得ないでしょう。とんでもない事を書くかも知れませんがそこは寛容をもってお読みください。わざわざ断わらなければならないのか不思議ですが。僕は嵐の中では嵐の止んだ後の事を夢想します。この辺りに自分が潜んでいるようです。熱中と書きながらすでに果 ててしまったりします。顎を左下30度、瞳を右上15度ちょうどこの角度に自分のポジションが見えて来ます。撃たれないよう、しかし攻撃はすぐに展開できる角度です。


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July 14, 2004

分岐の在り処(ありか)01

その女は黒革の腰割れミニスカートを履いていました。深紅のブラウスをまとっています。黒の網タイツを着けています。肌は白です。髪の毛は栗毛です。瞳は黒で口紅はブラウスと同色です。うなだれています。傍らに男が立っています。男は携帯になにやら話し掛けています。女はその携帯を受取るや否や深刻な表情になりました。これらの情景は事実です。しかしこれから先は彼女の世界です。誰も変わる事は出来ません。


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July 13, 2004

完成度を高める為に何をすべきか。

ガン末期の妻がいる。
もはやモルヒネも効かない。
「抱いて・・・」妻は夫に言う。
夫は抱く事により妻の苦痛が減るならばと応じる。
だが、妻の体は強い抱擁には耐えられない。
意を決した夫は手の指に全身の力を込めて抱く。
もはや消毒液の臭いしか残らない妻の髪に哭く。
強い力は嘆きとともに病室の壁に拡散して行く。
妻は夫の指に抑えようとする震えが有るのを知っている。
ありがとう・・・。
でも、もっと強く・・・。
妻の求めに応じて力を込めて抱くかは、あなた次第。


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July 12, 2004

時間

彼女は煙草を切らさず吸い続け黙ったままだ。そんなに吸ったら身体に悪いよ。 何故黙っている、言葉を忘れたのか。脳から口から交互に言葉が発せられる。大して意味があるとは思えない惰性の羅列。しばらくして気が付く。そうか黙っているのではなく、言葉を吟味していたのか、互いに傷付くのを恐れて。恐れるあまり時として言葉は寡黙に変わる。人を待つ間、目の前のベンチで手を繋いだままの二人を見ての作文。余計なお世話だ。しかし、寡黙をアニメーションで表現したらどうなるのか?考えた(それなりに)結果 、僕は頭の中にサムネールが出来上がる。「親指と人さし指で相手の人さし指を愛撫する。動きはこれだけ。」 現実には彼女は煙草を吸う為に安物のライターで火を着けるし、彼は俯き顔を上げれば相手の横顔をちらと見る。動かない事は決してない訳で、この動きこそが寡黙の持つ一種の緊張感をほぐしている訳だ。と言う事は動かない事こそが緊張感を表わす。後は構図だね。


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